記憶 (ページ26)

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最後の一日は、おばちゃんに頼み込んで俺がもらった。

おばちゃんはただ、

「ありがとう」

そう言うてくれた。

ハマちゃんの車で向かったのは、一緒に行こって約束してた海。

「潮の匂いやぁ…」

車椅子のしげは、この砂の上を歩くことはもうできないから。

「砂、気持ちいで」

スニーカーと靴下脱がすと、
器用に足置きを跳ね上げてその指が砂に埋まる。

「うみ、やぁ」

「およぎたかったなぁ」
「俺、泳がへん！」
「およがれへんかみちゃん、かわええ」

この毎日が、ずっと続かへんかなぁって。
まだ諦められないでいる。

「ほんまはな？」

「わかれようとおもってた」

急に真面目なトーン。
しげの前にしゃがみ込むけど、もう目は合わない。

「こんなおわかれ、かみちゃんからしたらめいわくやんって」

「けど…ごめんな？さいご、かみちゃん、と、いたかった」

「かみちゃんに、となりに、おってほしかった、」

「わがままいうて、ごめんな？」
「そんなんっ！」

「俺がしげといたかったの！」

「やからさぁ、泣かんの。笑ってバイバイ、すんねやろ？」

まだ一緒にいたい、

いかないで、

伝えたい言葉は、無理やり飲み込んで、
俺の涙は、こっそり袖に吸い込ませた。