記憶 (ページ11)

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ほろほろ、
口の中で解けていく。

ちっさい頃、オカンと作ったあのクッキー、

味は覚えてへんけど、たぶんこんな味やった気がする。

懐かしさと、

噛むたびに、じわって染み込んでくる幸せ。

自分を好きやって言うてくれる人が、自分のために作ってくれたもの。
こんなに嬉しいんや、って。

「しげ！めっちゃうまい！俺、これ好き！」
「まじで？はぁ…」

よかったぁ…
ため息つきながら、しゃがみ込む。

「しげ、上がって行かへん？」

めちゃくちゃ幸せな誕生日、もうちょっとしげといたいなって。
一緒にクッキー、食べたいなって。

まだ一緒にいられると思ったのに…

「んーん。帰るわ」

しげは立ち上がった。

「まだ、好きな子の家には上がる勇気ないし。笑」
「え、」
「誕生日、おめでとう」

「今日会えてよかった」

「また月曜日に」

何も言われへん俺に手を振ると、すぐに背中を向けてしまったしげ。

あんなん言われたら、引き留めるなんてできひんし…

盛大にお祝いされたわけでもないし、
豪華なプレゼントをもらったわけでもない。

なのに、
今までで一番心が満たされてるのを感じてた。