Colorful stories 11（W.短編集）

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「おじゃましまーす、」

初めてお邪魔するわけやから、大きな声で、家中に聞こえるように言うて、頭を下げる。
挨拶、礼儀は大事やねんで！


「誰もおらんから大丈夫やで？
オカンは遅くまで仕事やし、姉ちゃんは毎日彼氏んとこで飯食ってくるから遅いし」


え、2人っきり⁉︎なんでドキっとして、一人で白けた。
男同士。
なんなら、今日初めてまともに話したくらいの、まだ友達とも言えない程度の仲。
何を緊張することがあんねん。


「床もなんも敷いてないし痛いから、ベッド座って？」
「い、いや！寝る場所やから、それは！」

重岡くんの部屋に入ると、好きな人の匂いに包まれるわけで。
ぽーっとする頭を振って、慌てて床に正座した。


「神山くん、真面目やなぁ。笑」

言われるやろ？と、満面の笑み。
確かに言われますけれども。


「まずは、どんくらい弾けるか見してや」
「え？めっちゃ恥ずい！ほんまに全然やし。見せられへん！」
「やから、教えんねやろ？大丈夫、笑ったりせえへんから！」


腕を引っ張られて、ピアノの椅子に座らされる。
すぐ斜め後ろに、重岡くんの体温を感じて、鼓動は速まる。
勇気を出して鍵盤を必死に叩く。
緊張してんのに、不思議と重岡くんの前やとうまく指が動いて…


「ここまで、」
「うまいやん！左右別々に動かすまでが大変なんに。結構練習したんちゃう？」
「まだ一ヶ月くらい。でも、毎日弾いてる」
「えらいやん！」




キラキラした目で顔を覗き込んで、頭撫でてくれるから、俺はもうパニックで…


「子ども扱いせんとって、」


照れて拗ねた言い方してもうた。怒らせたかな、失礼やったかな。

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