Colorful stories 4 （W.短編集）

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「大毅、ちょっとええか？」

ともの傷も癒えて、屋敷の中を歩き回ることができるようになった頃、配達に出ようとしたところを旦那様に呼び止められた。
大事な話をする時にしか入らへん部屋。
やましいことのある俺は、緊張を隠して、旦那様の後に続いた。





「大毅、これまでで一番大きな仕事を任せる」

端正なお顔立ちに、仕事中の厳しさが加わって、否が応でも緊張は増してゆく。

「はい」

「ともを幸せにしてくれ」

「え…」
「お暇や。明日、ともを連れて出て行くように」

厳しい口調とは裏腹、目には涙を浮かべておられる。

「旦那様、」
「大毅、初恋は実らへんいうんは、ほんまやってんなぁ、」

こないに人を愛したこと、なかった、
そう言うて、ポロポロと涙を流される。
長くこの方のもとで働いてきたけれど、初めて見る弱々しいお姿に、驚きよりも苦しさが込み上げる。

「ともと、幸せになりや？」

そう言うて手に握らされた、封筒。
開いてみると、茶屋との身請けの契約書だった。



旦那様は、俺の姉夫婦に連絡を取り、俺らを引き取るよう手筈まで整えてくださっていた。








「旦那様…」
「とも、俺はともの笑うた顔が好きや。最後は笑うておくれ？」
「はいっ、」

瞳から今にもこぼれそうな涙が、くしゃりと笑った拍子にぽろりと落ちて、筋を作った。


「とも…」
「旦那様。俺は、旦那様に貰われて、大切にしていただき、ほんに幸せ者でした」
「これからは、大毅と、今より幸せにおなり？そうやないと、俺がともを手放した甲斐がない」

大毅、頼んだぞ。
そう言う旦那様の声は震えている。

「もちろんです」

お約束したいのに、これまでの旦那様との日々が脳裏に浮かび、俺の声も震えて、うまく言葉にできない。

「大毅、これまで大層世話になったな。これからは大毅がおらんのか…」

困ったように笑って、背中を押す旦那様。
ともの前に、押し出された。

「さぁ、大切な二人との別れは辛い。早う行ってくれ、」

深く深く下げた頭を上げると見えた旦那様。
そのお顔は、今までになく穏やかで、お優しいお顔だった。

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