今宵の月は貴方ですか？(JUMP×ym) (ページ4)

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『おう、山田。今日は早かったな』

いつから…だったっけ。
彼が寂しそうな笑顔を浮かべるようになったのは。

『いつも花、ありがとな』

真っ白な部屋に溶け込んでしまいそうなくらい、儚く笑うようになったのは。

『大貴の命は、あと3ヶ月なんだって』

『え、？』

『…大貴、山田には言わないで欲しい、って。
一年前に余命宣告された日から言ってて』

『そんな、』

『だから僕、痺れ切らしちゃった。
大貴ったら、涼介が来ない日はずっと病室に引き篭って窓の外見てるんだもん。山田は今何してるんだろ…って』

そう言って笑った侑李の顔は、何処かあの部屋で笑う彼にそっくりで。
膝から崩れ落ちてその場で泣いていた俺に文句一つ言わずに、一緒に泣いてくれた。

『なぁ、山田。…俺がさ、元気になったら…二人で海行かね？
ほら、小さい頃に侑李と母ちゃんと、俺とお前の4人で行っただろ？
あれ、めちゃくちゃ楽しかったよな』

何、言ってんの。
もう3ヶ月しか生きられないんだよ？どうしてそうまでして俺と生きることを優先するの？
…ねぇ、なんで。
こんな俺を、好きでいてくれるの。

『涼介しか大貴の朝寝坊面倒見れる人いないからさ。
…幸せにしてやってよ、大貴のこと』

『ちょ、侑李…っ、お前俺のことなんだと思ってんだよ』

『え？5歳児』

『おい』

まだ大ちゃんの病気が発覚する随分前。
高校生だった俺達は、幼馴染を卒業して、晴れて恋人になった。
そんな中で過ぎ去っていく毎日が楽しくて、眩しくて。
気が付いたら俺達はもう大人になっていた。
それでもほぼ毎日のように会っていた俺達は、学生の頃のように馬鹿して、ふざけて。
本当に、本当に。幸せだった。
これ以上の幸せを知らなかった。

どうでもいい事で一々腹を抱えて笑い合っていた、そんな何でもないある日のことだった。

『俺、暫く入院することになった』

土曜の昼下がり。
昨晩の残業の所為か、起きたのは昼過ぎ。
それも寝坊助な大ちゃんからの電話で。

『え…？』

『脳に腫瘍があったんだって。
でも手術すればすぐ治るからさ。安心してよ』

電話越しに聞こえる声は普段と何ら変わっていなくて。
一瞬嘘だとも思ったけど心配になって向かった病室に、『よっ』と片手を挙げて笑っている顔を見たら、ほっとして思わず安堵のため息が漏れた。