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｢ただいまー…｣
午後8時。
少しの期待と少しの緊張感を抱いて引いた玄関のドアは、案の定開いていた。
今朝は彼との会話も殆ど早口だった気がするから、今夜こそはいいムードにしたいと張り切って仕事から帰ってきたけど、いざ目の前に並べられた彼らしいカジュアルなスニーカーを見るとやっぱり怖気付いてしまう。
｢山田？おかえり｣
｢あ…っただいま、｣
リビングのドアから顔を出した彼に思わずドキッとした。
なんだか夫婦のような会話のせいで心臓はバクバクと煩くて破裂してしまいそう。
ゆっくりと小さく深呼吸をして、彼の靴の隣にそっと自分のも並べた。
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｢俺腹減った、飯作ってよ｣
｢え、でも冷蔵庫何も入ってないし…、｣
｢そうだろうなって思って先に買い出し行っといたから｣
｢え、まじで？｣
｢おう｣
何が食べたいか聞くと、彼は速攻で｢オムライス！｣と答えた。
好きな食べ物も、服の好みも。やっぱり彼は変わらないまま。
なんだか心の底がじんわりと温まるような気がしてエプロンの紐をキュッときつく縛った。
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｢じゃ俺帰るね｣
｢うん、またね｣
オムライスを物凄いスピードで食べ終えた彼は帰り支度を始めた。
もう少し一緒にいたい、なんて思っても彼は超能力者でも宇宙人でもないから構わずに玄関に続く廊下を歩く。
もっと一緒にいたいなんて言ったら彼はどんな顔をするだろうか。
きっといつもの太陽のような笑顔でサラリとかわされてしまうのかな。
どっちにしろ、俺は臆病だから上がり框に座って靴紐を縛る丸まった彼の背中を見ることしか出来ない。
｢…なぁ、｣
｢ん？｣
｢これ、俺が持っててもいい？｣
｢え、？｣
靴紐を縛り終えた彼は立ち上がり、つま先をトントンとしながらそう言ってポケットの中から何かを取り出して俺に見せてくる。
それは今朝俺が渡した合鍵だった。
彼の骨ばんだ指の間で揺れるそれはただの鍵のはずなのに、なんだかダイヤモンドにまで見えてしまっている俺はきっと重症だ。
｢会いたくなったら会いに来る｣
｢っ、うん｣
｢理由もなく来るかもしれない｣
｢うん、｣
｢それでもいい？｣
そう聞いてきた彼の目は真剣で。
いつでも会いに来てくれると言った彼への想いは募っていく。
静かな玄関に俺の心臓音が響いてしまいそうな気がしたけど、そんな事はもうどうでも良かった。
さりげなく会う約束をしてくれた彼は、いつもより大人だった。
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なづな(プロフ) - 雄也たんさん、ありがとうございます！初投稿なので少しおかしな所もあると思いますが、期待に応えられるように日々精進したいと思います。 (2020年9月13日 19時) (
レス) id: 508217b1b8 (このIDを非表示/違反報告)
雄也たん - 今後のうらツクも期待してます。泣けるような話も、期待してます。 (2020年9月13日 19時) (レス) id: a15daa54b1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：なづな | 作成日時：2020年9月13日 19時
