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今日はどうやらついてないらしい。
今も、今朝も。
さて、どう帰ろうか。困ったもんだ。
そう呑気に考えながら、履き潰した踵を直した。
｢あれ、伊野尾。ひとり？｣
聞き慣れた声が聞こえて振り向くと、ふにゃっとした笑顔で片手を挙げている薮がいた。
｢なに、お前、傘持ってねえの？｣
｢うん｣
｢ったく、しょうがねえな｣
困ったような、そんな笑顔を浮かべながら靴を履いた薮はバサッと傘を広げた。
訳が分からずその工程を見ていたら、｢なに突っ立ってんだよ｣と薮は振り向く。
｢へっ？｣
｢送ってってやるよ。ほら、｣
細長い指に手首を掴まれ、抵抗もせずにその広い背中を追いかける。
雨は暫く止みそうにないので、大人しく同じ傘に入って隣を歩く。
俺より少し高い位置にある肩に触れそうになって間隔を取ろうと右に数センチずれるけど、大きな手がそれを許さなかった。
｢…濡れるぞ、｣
｢…ありがと｣
引き寄せられた体は薮と密着していて、柄にもなく少しだけ強張ってしまう。
トクトクと落ち着きがない心臓は、大ちゃんとは正反対な自分より大きな体に慣れていないからだろうか。
何より、こんな状況は初めてだ。
きっと大ちゃんと相合傘なんてしても、傘を持つのは俺の役目だし。
だから少しだけこの状況を楽しませて欲しいなんて、ただの言い訳に過ぎないのかもしれない。
中学の頃からの付き合いである薮とは今までにも何度かこういう恋人っぽい事をしてきた気がするけど、何故だか今日のはやけに心臓が落ち着かない。
いつもは大ちゃんとだったら…、ってすぐ考えてた筈なのに、今日は薮でいて欲しいなんて。
心のどこかでそう思っては、大ちゃんの顔が頭に浮かんで慌てて心の中で否定する。
駄目だ、でも…
なんて葛藤を繰り広げていると、薮が徐に口を開いた。
｢伊野尾ん家ってどっちだっけ？｣
｢え、っと…こっち、｣
｢そーだっけ｣
…嘘。
本当は逆の細い道。
でも今日は大ちゃん家に荷物を置きっ放しにしてるから、どうしても寄らなくてはいけない。
少しだけ、嫌だって思ってるのは事実。
今朝見知らぬ鍵を見つけた時、浮気してるんだ、ってなんだか他人事のように思って。
別に苛ついてる訳でも、浮気されて悲しい、なんて思ってもない。
ただ俺が感じたのは、俺の知らない｢誰か｣に対する羨望心だった。
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なづな(プロフ) - 雄也たんさん、ありがとうございます！初投稿なので少しおかしな所もあると思いますが、期待に応えられるように日々精進したいと思います。 (2020年9月13日 19時) (
レス) id: 508217b1b8 (このIDを非表示/違反報告)
雄也たん - 今後のうらツクも期待してます。泣けるような話も、期待してます。 (2020年9月13日 19時) (レス) id: a15daa54b1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：なづな | 作成日時：2020年9月13日 19時
