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『あ、今日これ持ってきたんだ』
私と親の事を知っている雄登は気を使ってくれたんだろうけど、
その話しの逸らし方があまりにもわざとらしくて、
『え?なんで笑ってるの?』
思わずぶっと吹いてしまった私を雄登は
心底不思議そうに眺めている。
「ううん、なんでもないよ」
そう言う私の顔はまだ口角が上がり続けてる。
『俺なんかした?もしかして顔になんかついてる?』
「ついてる…って言ったら?」
『え?とってよ〜』
何にも付いてないのに、
私のくだらない嘘なのに、
雄登は本当に騙されやすいタイプだと思う。
頭いいくせに、そういうところは頭が回らないらしい。
「とってあげるから、目つぶって?」
『ん』
そう言って素直に目をつぶって
私から手が届くように体を近づけてくれるけど、
「ふふっ」
やっぱりそこには何にもついてなくて、
とってあげる振りをしても良かったけど、
そこまで騙すのはなんだか気が引けて、
と言っても動く足を動かないと、大きすぎる嘘をついてる私が言えることじゃないんだけど、
「ふふ、ごめんね、本当は何にもついてないの」
『ほんとに?』
「うん、ほんとにほんと」
そう言えば 騙された〜なんて笑うから
また私もつられて笑ってしまう。
こんな瞬間を私はただただ幸せだと思ってしまう。
きっとこんな2人を周囲の人間は
一度別れを切り出した者と、別れを切り出された者とは決して思わないだろう。
自分でもあれは幻だったんじゃないかと思うことが何度もある。
だけどそれは私の願望にしか過ぎなくて、
こうやって怪我をしてるという事実が、夢でも幻でもなく現実なんだと分からせる。
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作者名:りと。 | 作成日時:2018年5月16日 1時