アネモネは微笑まない。 (ページ5)

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○ ページ5

その日は雄登の部屋でいつもと変わらない時を過ごしていた。

本当にいつもと変わらなかった

だから雄登があんなことを言うなんて

少しも疑ってなんかいなかった。

『別れてほしい』

「…え？」

意味が分からなかった。

『俺と、別れてほしい』

「どういう…」

『ほかに、好きな人ができた』

よく考えればおかしなことはいくつかあった。

外にデートに行くことが多かったのに

最近はもっぱら家ばかり、

家にいるのにカップルらしいそれらは

ほとんどしなかった。

好きなんて言葉を言ってくれることすら

なかった。

本当はそれに気づいていたはずなのに、

私は信じたくなくて、気づかないふりをしていた。

「帰る…」

雄登の言葉に返事をするのが怖くて。

別れる、とも別れない、とも言えなくて

ただ " 帰る " としか言えなかった。

答えをここで直接言うのは怖かった。

だから、逃げた。

乱雑にカバンを拾い上げて

乱雑にドアを開けて

この時の私に冷静さなんてものはなかった

とにかく逃げたかった

雄登が別れを切り出したその場から

少しでも、遠くに行きたかった。

そして、勢いよく入った横断歩道が赤信号だったことに馬鹿な私は気づかなかった

"'キキー

ドラマや映画でしか聞いたことのない音が

私の耳に入ってきた。

その音を出させる要因が私だと気づくのに

時間はかからなかった。

迫ってくるのは大きいトラック

動かなきゃ

この場から動かなきゃ

そう思うのに、本当にこういう時って足が動かなくなるんだと思った。

痛いと感じる暇もなかった。

飛ばされた体は容赦なく地面へと向かっていく。

死んだ ___

叩きつけられる瞬間、頭をよぎったのはそんな言葉だった。