春の予兆【sik】 (ページ4)

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ミンミンと鳴くうるさいセミたち、グラウンドで何やら騒いでいる男子達、イッテツはクーラーが1番当たる席で、よく女子達の居座る場所だったのを思い出す。

全部鬱陶しく、うるさく思えた。

｢また端っこ…好きだよなー｣

だからよく、教室の一番端で窓に近い場所に座ってた。テツと私以外知らなかったと思うけど、ここは窓を数cm開けるだけですきま風が通って涼しいのだ。

だからよく、2人きりで話してた。
7月で1番暑い日だった、私は進路相談も無事終わりいつも通り涼んでいた頃、ちょうどテツの方も終わったらしい

｢三ツ矢サイダー、いる？｣
｢んー飲む｣

｢進路相談早かったじゃん｣
｢専門行くってずっと言ってたし、ね
テツはどうすんの？｣

｢オレは｣

久しぶりに飲んだ炭酸は喉が痛くなった。
飲みきれなかった。

"ヒーロー"という職業は知っていた。

結構、というかだいぶショックだったんだろうなと今になって思う。高校三年生って年で見たら大人だけど、まだ全然幼稚なんだなって改めて思うんだ。

｢無理だよ｣

｢テツには無理だよ｣

半分も飲んでないサイダーをその場に残して教室から逃げた。
教室じゃない、イッテツから逃げたんだ。

怖くなったから
あなたが怖くなった

自分でも、そういうところだぞとトイレで密かに泣いたのは覚えてる。自分とイッテツを比較して、落ち込んで、勝手に逃げた。

だって仕方ないでしょ。

ヒーローになりたいと言う彼の目は、見た事のないぐらい輝いていたんだから。