【d!】可惜夜と朝顔【ut】 (ページ4)

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Episode.2 ページ4

◇

「まぁええわ。なんか興醒めやし、今日は帰るわ」
「あ、鬱島」

鬱島は乗り越えようとしていた柵に背を向けて、徐に私の横を歩いていった。引き留めようと軽く手を伸ばしかけたが、名前を呼んでも此方を見ない彼に手は宛もないまま空をさ迷った。

後ろから遠ざかる足音が聞こえる中、私はただ下を向いて突っ立っていることしかできなかった。不意に扉が開く音がして、彼が屋上から出ようとしていることが分かった。

「あ」
「え？」

声が聞こえて振り向く。鬱島は半開きになった扉のドアノブに手をかけ、初めて私の方を意図して(・・・・)見た。そしてもう一度薄く口を開く。

「お前も早く帰れよ」

そう言った彼の瞳の中に深い夜空が見えた気がしたが、やはり彼は確認する暇もないくらい瞬時に目を逸らした。そしてそのまま猫背気味で屋上から消えていった。

時刻は16時28分。屋上ではいつの間にか風が吹いていた。

◇

家に帰ってから寝て起きると思考はいつの間にか冷静になっていて、屋上での自分の行動に羞恥心諸々含め絶望した。幾らあの時は死にたかったからって、ほぼ初対面で話したこともまともにない人に心中まがいのことを誘うのはどうなのか。
私の言った言葉一つ一つを思い出す度に顔が赤くなったり青くなったりして、思わずベッドに寝転んだ。

「ほんまに、やめて」

その時の彼の表情が脳裏にこびりついている。
死ぬのを止められたことに、生きることに抵抗するような静かで深く、反抗的な眼。
多分彼は私が止めなければ本当に死んでいただろう。
あの眼には、確かに固い決意があった。

多分彼にはもう二度と関わらないだろう。所詮は組の違う、関わる理由がないふたり。その上彼が私を避け始めたら、校内ですれ違うことすらなくなるだろう。
それでもいいかと思う反面、死ぬことを邪魔してしまったことに申し訳なさを抱いた。