私、 変わります。

31. 優しさという刃 ページ31

「…もうとっくに帰ったわ」






だよな…待ち合わせの時間…過ぎてるし。






カウンターにひれ伏して






ムロさんが出してくれたグラスを

横目で眺めながら






本当だったら今頃…ここで…この場所で

あの子の笑った顔見れたはずなのに。







「…で？…解決したの？」






洗いたての食器を丁寧に拭きながら





ムロさんが確信を着く。







…解決…解決ねぇ……解決……






「…そんな簡単に解決出来るわけないか？
恵梨香が簡単に諦める訳ないしな？」





ムロさんはそう言いながら

拭き終わった皿を今度は丁寧に食器棚へ

片付け始めた。






…恵梨香があんな事言うなんて


正直想像もしてなかった。


仕事もプライベートも順調そうで


別れてからも時々送られてくるLINEには


順風満帆な生活が垣間見れてた。






今更…どうして？





今頃…何で俺を求めんの？





Aちゃんの事だけ考えてたいのに





頭の片隅から離れない恵梨香の涙。









「だから言っただろう〜？」






「………」






「お前は近いうちに2人の女を泣かす
事になるって」





「…本当な…その能力…別に使ったら？」






「フフフ…使いたくても使い所が
ありません(笑)」





…確かに…毎度当てられても怖いわ。








「…倫也」






「…ん」






「お前が優しいことは俺が一番分かってる
つもり」





「…何だよ…急に…」





「…優しさは時に…刃にもなる」






「…刃？」





「…その優しさが突き刺さって
ダメになっちゃうこともあるって
ことだよ」





「…何だよ…それ」









丁寧に片付け終わったシンクは

汚れ一つなくて…俺の顔が…歪んで映ってた。







携帯の着信音ー。





画面を見れば「Aちゃん」の文字。





やっと繋がったー。





話さなきゃ…ちゃんと説明して誤解解いて

とりあえず、会わなきゃー。






「もしもしっ？Aちゃん？
今どこ？ごめんっ！今日会えなくて…
ちゃんと説明したいんだ…会おう？
会ってちゃんと話したい…もしもし？
Aちゃん？聞いてる？…」






Aちゃんの深呼吸が聴こえた。





「…中村さん…」





「…何？どこ？」









「…別れましょう」






優しさっていう刃に…俺は今…刺された。

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