3話 ページ3
可愛らしい小さなリップ音と共に離れていく温もり。
それに若干の名残惜しさを感じながらゆっくり瞼を開けば、目の前の彼への愛おしさが溢れる。
照れ臭そうに、慣れないことをした気恥ずかしさを誤魔化したいのか、パソコンの電源を落とそうとすぐに後ろを向いてしまう。
いつまでも初心な、可愛い君のままで。
あわよくば私だけしか知らないでいて欲しい。
えいっ、と勢い良くその背中にぎゅうぎゅう抱きつくと、こらえ切れない笑みが溢れて、ついつい喉が揺れてしまう。
「何笑ってんの」
『べつに、ちゅーされちゃったなあって』
「…あー、そうね?」
『照れてる?イブラヒム流石に初心すぎないか』
「んなわけ。舐めんなざこ」
分かりやすい強がりに、思わず ふひ、と小馬鹿にした笑いが漏れてしまうが、もう言い返す余力も無いのか無言で頬を抓られてしまった。
二人並んで歯を磨いて、何気ない日常に幸せを感じる深夜1時。
歯を磨きながら慣れない夜ふかしに今にも閉じてしまいそうな瞼と戦っていると、「もう負けてんのよ。ばぶたん」と隣から喧嘩を吹っかけてくる男。
歯ブラシで話せない代わりに えいっ、と脇腹を肘で突くと「っ…ちょ、これは折れた…身長の代わりに馬鹿力すぎ……」と何やら負けゼリフを吐いて弱々しく足元に蹲っていったが、放っておいて問題ない。
新人くんと比べたら、お前の身長なんて足元にも及ばないんだぞ。
ぼんやりと微睡んだ意識のまま、彼に手を引かれてベッドに潜り込む。
天日干ししたおかげでふわふわ温かいお布団、お日様の匂い。
それから、珍しく隣にはスマホを触って欠伸する彼の姿。
安眠材料の揃った空間に、もう限界を迎えていた私の眠気はピークだ。これは完敗である。
配信者の彼とは違い、どこにでもいるOL2年目な私はいわゆるパンピというやつで。
朝が早い分夜ふかししないこともあり、彼と一緒に眠りにつくことは一般的なカップルと比べると少ないのかもしれない。
朝起きてからすやすや眠りにつく彼の寝顔に行ってきますをするのもしょっちゅうだ。
寂しくないと言えば嘘になるかもしれないが、それでも彼が私を大切にしてくれているのは十分伝わる。
現に今も、私が寝かけているのをいい事に恐る恐るといった感じで心地いい体温に頭を撫でられている。
不器用で恥ずかしがりなくせに。起きてる時でもしてよね。
「おやすみ」
穏やかな、魔法のように注がれた彼の声を最後に暗闇の中へ身を委ねた。
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作者名:らりる | 作成日時:2022年1月17日 0時