続・やまいの短編集

★ ページ31

「でも、何て言って話しかければいいの？無視されたらどうしよぉ‥」

オレや薮ちゃん、光君にはあんなに強気ないのちゃんが、まるで乙女のようにしおらしい！
貴重すぎる！写真撮りたい！
そんな事を心の中で思っていると、ついつい相談に乗ることを忘れてしまって。

「…ねぇ大ちゃん、聞いてる？」

「っあぁ、聞いてる聞いてる！えーっと、無視だっけ？するはずないじゃん、山田だよ？」

「‥でもぉ、、、」

「そんなに不安ならさ！オレが一肌脱いであげるよ！」

そう言った途端、暗かったいのちゃんの顔がぱあっと輝いて、待ってました！と言わんばかりに両手を握られた。

「ほんとっ！？ありがとう大ちゃん！」

「‥うん、大切ないのちゃんのためだしね。」

…オレ、棒読みになってなかったかな。
あまりの身代わりの早さに唖然としてしまったぜ。


「大ちゃんだいすきーーー！」

両手をほどかれたと思ったら、今度はぎゅっと抱き締められてこの台詞。


‥うん。いのちゃんてこーゆう奴だよね。
オレ達は分かってて振り回されてるの。
いのちゃんのこーゆうとこ、面白くて好きだし、あの目で見つめられて断れっこないし。
なんやかんやでいのちゃんだって友達思いで優しいしのも十分知ってるし。
全部ひっくるめて可愛いから。

それに、こんな風に頼られるのも、いのちゃんに信頼されてる証だしね。
華奢な背中をポンポンと叩きながら、半ば投げやりに返事を返す。


「はいはい、オレも好きですよー。
　ほら、もうそろそろ離れないと、山田に見られたらますます怒らせちゃうよ？」




「‥分かってるなら、さっさと離れなよ。」

ドアの方から聞こえてきた、やけに低く冷たい声に背中がヒヤッとした。



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