続・やまいの短編集

年越しばなし ページ25

※今さら年越し話です。




「はぁー美味しかった！ご馳走さまでしたっ！」

今年最後の食事になるであろう、山田が作ってくれた年越し蕎麦の汁まで飲み干して満足気に息を吐く。



2016年もあと１時間で終わるところで。
一年の最後の日まで、大掃除したり料理したり洗濯したりとせわしなく動いていた彼は、休むことを知らないのか今度は食器を洗い始めようとしている。

「ねーえ、おれがあとで洗うからさ、こっち来てよ。ゆっくりしよ？」

ソファの背もたれに顎を乗せて、キッチンにいる彼に上目遣いでおねだり。
この顔、弱いでしょ？知ってるんだから。

案の定、しょうがないなー、なんて言いながらも嬉しそうにおれの隣に座ってくれて。
おれはしたり顔で彼の肩に頭を乗せる。


この１年で、彼の事をたくさん知った。
上目遣いに弱いこと、照れるとすぐ耳が赤くなること。クールに見えて実は結構甘えたがりなこととか他にもたくさん。

去年の今頃では考えられなかった。あの頃は山田の名前すら知らなくて。

４月、突然のプレゼントみたいに彼がおれの前に現れて。
今とは違う、素っ気ない態度の裏に隠された不器用な優しさに触れて、急速に恋に落ちた。
弾むようなどきどきも、胸がきゅーっと締め付けられるような痛みも、失恋も、おれが初めて知る感情は全て山田が教えてくれて。

ケンカしたり、すれ違ったり泣いたり、色々あったけれど全部乗り越えてきた。

そして今、こうして当たり前のように二人並んで新年を迎えられるなんて夢みたい。



年末恒例のあの歌番組を見ながら二人で口ずさむ。彼は歌もうまいんだよ。そうやって、彼の事を１つ１つ知っていける幸せ。


「慧？寝ちゃった？」

甘い歌声が心地良くて、うっとりと目を瞑るとおれが寝てしまったと勘違いしたみたい。
寝る前に必ずしてくれる優しいキスが髪の毛に降ってきて、それが嬉しくて寝たふりをするとおでこや頬にも落とされる唇。

すぐに物足りなくなって、山田の首に腕を回し自分から唇を重ねた。

「っ、起きてたの？」

「うん、起きてたの。」

おでこをくっ付けて二人で笑い合う。
幸せいっぱいの山田の瞳を覗くと、そこに映るのは幸せいっぱいのおれの姿。


…何と表現すればいいのだろう、愛しくて堪らないこの気持ちを。


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