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「…………いけるで忍足謙也、いつも通りや、いつも通り話せばええねん…」
四天宝寺中学校、図書室前。
謙也はドアに手をかけたまま、深く深呼吸をする。これもまた5回目である。
夏休み中だからか、わざわざ図書室に出入りする生徒は見られない。
どうすんねん、図書室で2人きりやったら、そんなん、そんなん！アカンやろ！！！！と思う反面、淡い期待も抱いていた。
「……よっしゃ」
ぐっと手に力を入れてドアを開ける。
約10cm程の隙間から、失礼しま〜す…と小さく呟いた。
「…あ」
ゆっくり部屋に入り、静かに歩く。まるで不審者である。
顔を上げると、広がる本棚に並ぶ横長の机。
その一角に小さな体が丸くなって座っていた。
「…A…？」
「………」
「！寝っ………………」
とにかく物音をたてないように動く。
椅子を引いて、謙也はAの向かいに座った。
「…かわい、」
Aは机に伏せて、小さな寝息を立てている。
つぶった瞼から生えるまつ毛は細く長い。白い頬に当たる冷房の風。
「………ん」
「うお、」
眉間に皺を寄せ、寝返りを打つA。
起きてほしいが、まだ寝ていてほしい。
図書室で2人だけの静かな時間。謙也の顔は思わずほころんだ。
「………」
顔に垂れるAの髪にそっと触れる。
艶やかで、ほのかに良い香り。
「……ん……？…」
「…あ」
「…？……………っ、わ、…お、忍足くん…」
「おっ、お、…おは、おはようさん…」
寝起きの掠れた声が、謙也の胸を高鳴らせた。
「………」
「！？…うわっ、すまん！こ、これ…違うねん！いや、ちゃうねん、ほんま！せや、ゴミ！ついてて！！」
「…恥ずかし、ごめん」
「………おー…」
顔を真っ赤にして、両手で顔を隠すA。
寝起きの彼女はこんなにも可愛いのかと謙也は驚きを隠せずにいた。
「………」
「…A？しんどいんか？」
「ちゃうよ、大丈夫……忍足くん、」
「？」
赤い顔のまま、謙也の方に目を向けるA。
少しだけ苦しそうな顔。
「………やっぱなんもない」
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作者名：野雲 | 作成日時：2018年12月30日 10時
