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「聞いてくれ白石」
「どうしたん」
「俺今日な、ヤバいねん、あんな」
「おん」
「Aの消しゴム拾ってもうた」
夏休み前、放課後の教室。
興奮気味に話す彼、忍足謙也はとても嬉しそうな顔をしていた。
「進展あったんちゃうんそれ、そっからなんか話したん？」
「ありがとうって返されて終わり」
「なんや、もっと行かな」
「無理やろ絶対無理」
クラスも部活も謙也と同じ白石蔵ノ介は、たまにこうして謙也の恋バナを聞かされている。
去年の春辺りからずっとこんな感じで、蔵ノ介は恋愛面に関しての謙也はほんまにヘタレやと感じていた。
「謙也…あの子モテるんやからはよ気持ち伝えとかな」
「無理やって！あんなん！！あんな可愛いの前にして言われへんやろどう考えても！」
「ほら、謙也の得意なスピード勝負や」
「いやこういうのに関してはスピードスターなられへんねん俺」
謙也には好きな人がいる。隣の席の、早川A。
綺麗に肩まで伸びた髪に控えめな性格。クラスの大人しい地味な男子にも優しく、年上のような余裕があって、密かに好意を抱かれるタイプであった。
「ほら、もうちょいで全国大会やんか」
「おー、勝たなあかんな」
「今付き合うたら、全国大会応援しててな〜って言えるんとちゃう？早川さんに」
「…白石、大会前に彼女作って舐めとんかとか言わんとこ優しいよな」
「誰の真似やねんそれ」
謙也が低い声で、どこかの部長の真似をする。
それと同時に教室のドアが開いた。
「あ」
「なんや」
「早川さん」
「冗談言うなや、そんなもん今おるわけ…」
「あれ、忍足くん白石くん」
聞こえてきた優しい細い声に、謙也は勢い良く振り向いた。
軽く手を振る蔵ノ介と、うわ！？！？という大声を出し椅子から派手に落ちる謙也。
「お、おおお、おお前っ、なんでおんねん！」
「？…わ、忘れ物して…」
「お、おう…さよか…」
謙也の脈はどんどん早くなり、顔は熱を持ち始める。一方、焦る謙也を見て頭にはてなマークを浮かべるA。
何話そ！？お、俺今からどうしたらええねん？あっ別に話せんでええんか、白石と喋っとけばええねんな！とぐるぐる頭を回転させる。そして深呼吸をして、謙也は落ち着いて椅子に座った。
「あ、俺オサムちゃんに用あったんやわ、先部活行くわな！」
「は？えっし、白石？」
「ほなな〜早川さん、後でな謙也！」
「ほなね〜」
「白石！？俺を置いていくんか！白石！！！」
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作者名：野雲 | 作成日時：2018年12月30日 10時
