5-20.命ある限り ページ20
十数分前────
ここから離れろ、というジェロニモの言葉が私には理解できなかった。
｢待ってジェロニモ。いきなり何を…｣
｢君は藤丸立香のサーヴァントだ。我々はぐれとは違う｣
精霊を駆使して攻撃を何とか捌きながら、ジェロニモは私に語りかける。
｢君のことはマスターから全て聞いた。
｢あなたに私の何が分か────｣
｢マスターからの伝言だ。“信じてる。俺は絶対に見捨てない”…だそうだ｣
その言葉に私は詰まった。
視界の端でビリーが倒れていた。
｢君は、彼の信頼を裏切るつもりか？｣
｢そ…れは…｣
クー・フーリンが吼えた。
ネロの剣が彼女の遥か後方に転がっていた。
血の生臭さが鼻を掠めた。
｢先に進むには必ず犠牲が必要だ。しかし君ではない。君はここで散っていい存在ではない。君が生き延びることが、我々の犠牲が無駄でないことを証明してくれる────｣
その時、ジェロニモの大きなコヨーテが吹っ飛んできた。
咄嗟に避けきれず、私たちもまとめて飛ばされた。
鉄の味を感じながら何とか立ち上がり、改めて戦場を見た。
ほんの数分前に未来視で見た光景がそこには広がっていた。
｢行け、A！必ず生きて合流しろ！｣
｢ごめ……いや、ありがとう｣
私は振り返らずに駆け出した。
宝具で地面に穴を開けて暗闇に飛び込み、崩壊し始めた黄金劇場を後にした。
私は黒馬に乗って荒野を必死に駆けていた。
血は完全には止まっていないものの、興奮状態にあるせいか痛みは全くない。
貧血と酸欠で視界が白黒しながら、私は歯を食いしばって何とか意識を保とうとしていた。
｢《主様、どちらへ行かれるのですか。何も聞かずとにかく走れ、とのことでしたが》｣
｢ハァ…ハァ…あなた、鼻は利いたっけ…？｣
｢《普通の馬程度には。ですが何故ぷグッ》｣
私はフィリップの鼻に手を被せた。
｢これ、ロビンの匂い…さっき庇った時に触ったから｣
｢《そっ…そういうことでしたか》｣
フン、と鼻を鳴らすと彼は少し進路を変えて更に速度を上げた。
それからはよく覚えていない。
どうやら運良く追撃を免れ、ロビンの居場所も特定できたらしい。
キャンプ地のような場所へ辿り着いた所で、遂に限界が来た。
私の身体はグラリと傾き、そのまま落馬した。
朦朧とする意識の中、マスターの声が聞こえた気がした。
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