5-14.現実への逃避 ページ14
Aは拳を握りしめて下を向いていた。
｢藤丸くん…今の言葉、信じていいの？私にはあの邪神を制御できる自信がない。いつか暴走するかもしれない。それでも私を大事な仲間だと思ってくれる？｣
いつになく弱々しく、震えた声だった。
俯いたまま俺と目を合わせようとしない。
｢うん。今までたくさん助けてもらったし、俺もみんなもAをきっと助ける。Aがいないと困るんだ。今からだって、この夢から覚めたらロビンたちと暗殺しに行ってもらわなくちゃ｣
｢ロビンね…あぁ、嫌な名前聞いちゃった｣
笑い声が聞こえて、Aはやっと顔を上げた。
｢…ありがとう。あなたに出会えて本当に良かった｣
｢俺の方こそ｣
こうして絆が深まったような良い雰囲気を終わらせたのは、魔獣達の鳴き声だった。
｢マスター、こっちへ｣
Aは俺を脇に抱えて走り出した。
｢私は放ったらかしなのかい！？｣
｢勝手に逃げなさい。ここで死んでも本体は無事でしょう｣
｢それはそうだけど、死ぬのは嫌なんだぞぅ！｣
そう言いながらマーリンも遅れてついてきた。
｢Aも宝具で魔獣呼べばいいんじゃないの？｣
｢それが出来たらもうやってる！そもそもあの力は邪神の権能を借り受けてるだけだから、ここでは使えない｣
そんな会話をしながら逃げていると、出口と思しき扉が見えてきた。
外へ出れば、もしかしたら目が覚めるかもしれない。
Aもそう思ったのか、扉を壊す勢いで体当たりした。
｢痛っ…開かない！？｣
｢何か結界のようなものが張られているが…うーん、何だろうねこれ｣
｢分からなくても何とかして、私たちじゃどうにもならない！｣
｢いや、そう言われてもこんなもの初めて見たからね…｣
もたもたしている間に魔獣達が追いついてきた。
｢こうなったら…キャスパリーグ！2人を叩き起こすんだ！｣
｢そんなこと言ってないで結界をどうにかしてよ！｣
｢さっきから結構理不尽なこと言うねAくん｣
マーリンはとりあえず扉を眺めているが、特に破れそうな様子はない。
Aは壁に飾られていた武器を持ち出して魔獣を何とか食い止めようとしている。
｢…ダメだ、非常に気になる魔術だが時間がない！急ぎなさいキャスパリーグ！藤丸くんとAくんのためだと思って！｣
｢しまった、一匹そっちに…マスター！｣
俺が最後に見たのは、俺に飛びかかってきた三つ目の狐のような魔獣の顔だった。
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