陽だまりの縁側《埴輪型竹輪 様へ》 ページ9
ぽかぽかの陽気が福沢邸の縁側を照らしている。時刻は午後3時。Aはお盆に、急須と湯飲みを3つ並べて、畳の上に置いた。
「福沢さん、お茶がはいりました」
Aの声に第一に反応したのは、福沢ではなかった。
「Aー、今日のおやつはー?」
とんとんと軽い足音をたててやってきたのは乱歩。おやつは何かと問いながら、彼は駄菓子を溢れんばかりに抱えている。
「もう! 乱歩さんはお菓子食べ過ぎ!」
「えー、いいじゃないの」
「A、戸棚に羊羮がある」
縁側に腰掛け遊びに来た猫を膝にのせていた福沢が、猫を下ろしながら言った。猫は、庭のすみに跳ねていった。
「切ってきますね」
「僕の分もだよ」
「だーかーらー――――」
二人の押し問答を終わらせたのは福沢だった。
「善い、A、乱歩の分も頼む」
「えっ!?」
驚くA。
「やったー!」
喜ぶ乱歩。
Aは不満そうに福沢を見つめた。普段はいつもここで、お菓子の食べ過ぎは良くないと同意してもらえるのに……。
物言いたげなAに、福沢が言った。
「乱歩は今週五件の事件を解決した。その褒美だ」
「僕は名探偵だからね! それくらい当然だよ。それじゃあA、僕の分も羊羮よろしく」
「…………はぁい」
Aは釈然としないまま、お盆から急須と湯飲みを下ろし、空になったお盆を片手に台所に引っ込んだ。
事件を解決した乱歩はすごいと思うが、福沢は乱歩を甘やかしすぎではないかと思う。ただでさえお菓子ばかり食べているのに。このままでは糖尿病待ったなしではないか、そもそも乱歩が活躍できるのは自分のような事務員が社を支えているからではないかと、Aは思う。
仕事でも美味しいところだけもっていかれ、家でもこき使われるなんて報われない。
戸棚の引き戸を開けると、福沢の言った通り、紙に包まれた箱がある。これが羊羮だろう。きっと福沢の貰い物だ。
包み紙を解いて、羊羮を三人分に切り分ける。こっそり乱歩の分は、少しだけ薄く切っておく。Aのささやかな抵抗だ。
そしてなに食わぬ顔をして、三枚のお皿に羊羮を二切れずつのせて、お盆にのせて運ぶ。
「はい、羊羮です」
真っ先に畳に座る乱歩の目の前に、羊羮を置く。それから福沢の側にひとつ。そして自分の分を乱歩のもの横に。
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作者名:雪の | 作者ホームページ:https://twitter.com/snow_snow_dream?s=09
作成日時:2018年10月7日 11時