明日は最高の日にしよう」《東雲 様へ》 ページ11
「あなたには黙秘権がある」
自分よりもずっと体躯のある男に手錠をかけ、Aが権利を読み上げた。捕まったのは、まだ若い少年と言っていいほどの男だ。逮捕されたというのに悲壮感はない。使い捨てられたチンピラだ。彼にような人間にとっては逮捕は箔がつく。刑務所に行けばもっとだ。罪状は重ければ多い方がいい。
そんなことを考えてか、男はAを振り払おうと抵抗した。彼女の手を振り払おうと身をよじった。
周りの捜査官は、全員警戒態勢をとった。無論赤井も、犯人を取り逃がしはしないかと警戒した。だが、Aは見事に犯人に足払いをかけて、男をその場に引き倒した。ついでに男の身体の上に乗り上げる。
男はう、と低い唸り声をあげた。
「無駄よ」
「暴行だ! 弁護士を呼べよあいたいいいだいいいい」
「ごめんね足が滑っちゃった。弁護士は署に着いたら呼んであげるから、今は大人しくしてて」
男を立ち上がらせて、Aは無事に犯人を車まで連れて行った。さすがにもう、抵抗する気にはならなかったらしい。
その様子を、眺めていたのは、捜査協力に派遣された赤井秀一だった。
「どうですうちの鉄の女は」
彼の隣にやってきた、彼女の上司が赤井に尋ねた。彼女のチームのチームリーダーだ。赤井より一回りほど年上で、デスクワークのせいか痩せている。
「うちに引き抜きたいくらいだ」
そりゃこまる、うちのエースだ、と、彼は笑った。犯人を車に乗せたAがこちらにやってきた。よく日に焼けた高い頬に、ひとまとめにひっつめたきりのブロンド。だがそれは、彼女本来の健康的な美をよく引き立てていた。
「赤井、せっかくの合同捜査だけど、仕事がなさそうで申し訳ないわ」
「いや、仕事がなさそうでなによりだよ」
「そう? そんな風には見えないけど」
Aが笑うので、赤井もつられて少しだけ口角をあげた。事件解決までにはまだ遠いが、ひとまずは二人とも今の逮捕の達成感に浸っていたかった。
「ねぇ、お腹空かない? 私ランチ食べてないの。すぐそこにダイナーがあるから、行きましょうよ。ねえダニー、私ご飯食べてくるんだけど、一緒にどう?」
Aが同僚に声を掛けた。その同僚に、赤井は視線を送った。どうか断ってくれないか、そう言外に頼んだ。彼女は快く赤井の願いを聞き入れてくれた。
「ごめんなさい、私さっきドーナツ食べたからいいわ」
そして彼女は、赤井にウィンクを残して去って行った。
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作者名:雪の | 作者ホームページ:https://twitter.com/snow_snow_dream?s=09
作成日時:2018年10月7日 11時