第30話 ページ5
国木田の顔がみるみるうちに青ざめてゆく。きっかけを作った太宰は、平気な顔で椅子に腰かけている。慌てて谷崎は弁明を付け加えた。
「Aちゃんが、尾行されていたので、安全が確認できるまでうちで保護していたンです」
それでも、国木田の渋い顔は直らない。だが、それよりも大事なことがあった。
「国木田さん、それよりも音信不通ッていうのが気になります。彼女は朝早くに家を出たンです。まだ帰ッてないのはちょッとおかしいです」
「……。お前は何か聞いていないのか?」
国木田は、釈然としていないようだったが、谷崎の言うように、Aがまだ帰宅していないのはおかしいとは思っているらしい。しぶしぶながら谷崎に尋ねた。
谷崎は、話題が変わり胸を撫で下ろす。Aとああなったことは後悔はしていないし、軽い気持ちで一晩一緒に過ごした訳ではない。雰囲気に流されたようになってしまったが、心が伴わない関係を結んだ訳でもない。二人の気持ちだけで見れば、後ろめたいことは何一つない。
だが、それが探偵社員と依頼人の関係としては不適切だという自覚も、一応はある。
「何も……。かなり早い時間だッたので、てッきりそのまま家に帰るものと」
「尾行されていたのなら何故家まで警護しなかった。その日のうちに自宅まで送り届けていたら何も起こらなかったのではないか?」
「それが、尾行していたのが、サークルの友達だッたみたいなんです。かなりショックを受けていて、一人にしておくのも心配で。朝になったので、流石に犯人もいないと思ッたんですが……」
国木田は相変わらず眉間にしわを寄せている。深く息を吐いて、目頭を押さえた。彼にとって。谷崎の問題は青天の霹靂だ。普段から問題行動だらけの太宰とは打って変わって、これと言って大きなトラブルもなく仕事をしていた彼に悩まされる日がこようとは。
そんな国木田と谷崎の成り行きを、敦も心配そうに見守っている。太宰は我関せずと居眠りを始めている。
「そうか」
国木田がぽつりとつぶやく。谷崎の言葉に対する反応というより、自分に言い聞かせる響きだ。
フロアには、重苦しい空気が漂う。
「あの、とりあえず、Aちゃんの捜索を始めます」
谷崎がおずおずと言った。
「居場所の心当たりはあるのか?」
「いえ……」
Aがどこにいるかなんて、そんなことに心当たりなんてものはない。だが、谷崎には一つの可能性が見えていた。
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にゃーちゃん - 初コメ失礼します!谷崎くん最推しなので超嬉しいし面白かったです! (2022年2月8日 9時) (レス) @page18 id: 04c952a5b3 (このIDを非表示/違反報告)
柘榴(プロフ) - 雪のさん» りょです!w (2018年11月11日 19時) (レス) id: 723d39c3a6 (このIDを非表示/違反報告)
雪の(プロフ) - 柘榴さん» ありがとうございます。公式から発表されていないことに触れることに抵抗のある方もいらっしゃるので、注意書きをしています。 (2018年11月11日 18時) (レス) id: 4ee9ff3c65 (このIDを非表示/違反報告)
柘榴(プロフ) - 夢小説だから過去とかめっちゃ捏造しても問題ない!と私は思う (2018年11月2日 21時) (レス) id: 723d39c3a6 (このIDを非表示/違反報告)
雪の(プロフ) - アカリさん» ありがとうございます。次回作も期待に添えるような作品にできるように頑張ります。 (2018年8月17日 21時) (レス) id: 4ee9ff3c65 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雪の | 作者ホームページ:https://twitter.com/snow_snow_dream?s=09
作成日時:2018年6月30日 22時