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第38話 ページ13

その日Aは、谷崎に招かれて彼の家に訪れていた。手土産に、先日彼女が食べてしまった、谷崎がナオミのために買っていたケーキの代わりを持って。
 玄関のベルを鳴らすと、彼はすぐに出てきた。
「どうぞ、あがッて」
 どこかぎこちない表情が、Aの胸に引っ掛かった。
「お邪魔します」
 だが勧められるまま、そのまま前のように、部屋に通されて、Aは畳に座った。
 土産のケーキを差し出すと、谷崎は笑って「ナオミが喜ぶよ」と言った。だがその笑い顔にも、どこか笑みの向こう側、彼に内在する何かが透けて見えて、Aはなんとなく居心地が悪い。
 空気を変えようと、Aは話題を提供した。
「この前は、ありがとう。あれから、何にも無いの。学校ではちょっと避けられてるけど」
「そッか、善かッた……」
 谷崎はAの話に、ぼんやりとした相槌を打った。視線はどこか明後日の方向では、やはり、彼は心ここにあらずだと、Aは確信する。
「あと、お母さんが何度も押し掛けたみたいで、ごめんなさい。依頼なんて、私だけじゃないのに……」
 Aがそう言うと、やっと谷崎はAの方を真っ直ぐ見返した。
「否、迷惑なんかじゃないよ。お母さんも凄く心配されてたし、あの時もしAちゃんの身に何かあったら大変だッたし。依頼を受けている以上、迷惑になンてならないよ」
 存外に真剣な面持ちで答えられ、Aはたじろいだ。追い撃ちをかけるように、谷崎が「本当に、無事で善かッた」と呟く。余計に居心地が悪い気がした。
「うちのお母さん、心配性だから。そういえば、話ってなあに?」
 居たたまれなさに、Aは無理矢理話題を変えた。今日は、谷崎から話があると電話があって、ここまでやって来ていた。
 電話をもらったときに、一瞬、Aの頭の中に、まさか別れ話かと嫌な予想がよぎったが、先程までの彼の態度でそれは掻き消えた。
 すると谷崎は、神妙な顔つきを変えないまま、Aの前に座り直した。ピンと背筋を伸ばして正座をして、膝の上で、手が固く握られている。
 余程重大な話なのだろうと、釣られてAの背筋も伸びる。
 谷崎は、視線を畳にじっと落としていた。
 そして覚悟を決めたように顔を上げて、Aを見つめた。一度大きく息を吸って、それから吐いて。
 Aを視線を会わせて、Aが今まで見たことがないほど張りつめた表情で口を開いた。

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設定タグ:文豪ストレイドッグズ , 文スト , 谷崎潤一郎   
作品ジャンル:恋愛
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にゃーちゃん - 初コメ失礼します!谷崎くん最推しなので超嬉しいし面白かったです! (2022年2月8日 9時) (レス) @page18 id: 04c952a5b3 (このIDを非表示/違反報告)
柘榴(プロフ) - 雪のさん» りょです!w (2018年11月11日 19時) (レス) id: 723d39c3a6 (このIDを非表示/違反報告)
雪の(プロフ) - 柘榴さん» ありがとうございます。公式から発表されていないことに触れることに抵抗のある方もいらっしゃるので、注意書きをしています。 (2018年11月11日 18時) (レス) id: 4ee9ff3c65 (このIDを非表示/違反報告)
柘榴(プロフ) - 夢小説だから過去とかめっちゃ捏造しても問題ない!と私は思う (2018年11月2日 21時) (レス) id: 723d39c3a6 (このIDを非表示/違反報告)
雪の(プロフ) - アカリさん» ありがとうございます。次回作も期待に添えるような作品にできるように頑張ります。 (2018年8月17日 21時) (レス) id: 4ee9ff3c65 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:雪の | 作者ホームページ:https://twitter.com/snow_snow_dream?s=09  
作成日時:2018年6月30日 22時

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