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第36話 ページ11

午後の業務は、谷崎は普段通りに終えた。国木田も、何もなかったように仕事をしていた。
 就業時刻になって、谷崎は荷物をまとめながら考えた。
 今日の夕飯は何にしよう。ナオミは何を食べたいだろう。
 お疲れ様です、と言い残して、谷崎は事務室を覗いた。ナオミに声をかけて、一緒に帰宅した。
 帰りに、夕飯の買い物をしにスーパーに寄った。夕飯は、オムライスの予定だ。
 電灯の灯りだした帰り道。谷崎は昼間の事を考えていた。Aと簡単に付き合い始めた訳ではない。かといって、このままではどうにもならない。ナオミにも、Aの事を黙っている。今までは、隠し事なんて一つもなかったのに。
 社員寮まで大分近づいたとき、遂にナオミの方が口を開いた。
「兄様?さっきからずっと、一体何を考えていらっしゃるの?」
 ほんのりと怒りのはらんだ、くっきりとした声。谷崎は、ぽろりと声をもらした。
「えッ?」
 まさかナオミに察せられているとは思っていなかった。
「もう、兄様ったら、ナオミの話を全然聞いていないのね」
 頬を膨らませる妹に、谷崎の頬が反射的に緩んでいく。可愛い彼女の機嫌をこれ以上損ねないように、笑いながら答えた。
「そんなこと無いよ。ちょッと考え事をしてたンだ」
「お仕事の事?」
「うん、仕事の事になるのかな……」
 Aの事を考えていた、なんて、言える筈もない。曖昧に濁した。
 だが、聡い彼女には通じなかったようだ。袖を掴まれて、違う返答をせがまれた。
「もう!何を考えていたの?ナオミにも教えて!」
 遠慮なく身体を揺さぶられる。
「うわッ、ちょッ、ナオミ、答える、答えるから…………」
 谷崎を揺さぶるのを止めて、ナオミは唇を尖らせて彼を見上げた。彼の答えを、ぱっちり開いた黒い瞳で促す。
 谷崎は、そんな妹の頭を、軽く撫でた。
「……ナオミは、ボクに恋人が出来るのは嫌?」
 見上げてくるナオミのまっすぐな視線が、僅かにたじろいだ。二度と、瞬きをして、それから、形のよい唇を動かした。
「それは、Aさんっていう依頼人の方の事ですの?」
 ナオミからAの名前が出てきたことに、谷崎は驚いた。ナオミは当然のように言った。
「兄様が、この前うちに泊めたと聞きましたわ。本当?」
 意外な事態に谷崎の脳内は一瞬混乱状態になったが、すぐに落ち着いた。ナオミも同じ探偵社で働いているのだ。それくらい知っていてもおかしくない。

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設定タグ:文豪ストレイドッグズ , 文スト , 谷崎潤一郎   
作品ジャンル:恋愛
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にゃーちゃん - 初コメ失礼します!谷崎くん最推しなので超嬉しいし面白かったです! (2022年2月8日 9時) (レス) @page18 id: 04c952a5b3 (このIDを非表示/違反報告)
柘榴(プロフ) - 雪のさん» りょです!w (2018年11月11日 19時) (レス) id: 723d39c3a6 (このIDを非表示/違反報告)
雪の(プロフ) - 柘榴さん» ありがとうございます。公式から発表されていないことに触れることに抵抗のある方もいらっしゃるので、注意書きをしています。 (2018年11月11日 18時) (レス) id: 4ee9ff3c65 (このIDを非表示/違反報告)
柘榴(プロフ) - 夢小説だから過去とかめっちゃ捏造しても問題ない!と私は思う (2018年11月2日 21時) (レス) id: 723d39c3a6 (このIDを非表示/違反報告)
雪の(プロフ) - アカリさん» ありがとうございます。次回作も期待に添えるような作品にできるように頑張ります。 (2018年8月17日 21時) (レス) id: 4ee9ff3c65 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:雪の | 作者ホームページ:https://twitter.com/snow_snow_dream?s=09  
作成日時:2018年6月30日 22時

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