36 お嬢さん ページ6
「何もないならいいんだ。ただちょっと、前みたいになにか抱えてる顔すること増えたから」
「井ノ原さんが?」
「Aちゃんが、だよ」
“わかりやすい”とはよく言われるけど、そんなにも分かりやすいのかな。上手く笑えてなかったのかも。
でも長野さんは相変わらずにこにこしてて、
「ま、“まだ”何もないならよかった」
って言った。
「何かあったらいいます」
「うん」
「あるか、わかんないけど」
戸惑いながら答えると、そうだねって長野さんは微笑んだ。
帰り道、そんなに遅くなったつもりはなかったけど、帰り際の立ち話が思ったより長かったみたいで、人通りが少なくなっていた。
梅雨はまだ始まってないみたいだけど、なんだか湿気が多くて蒸し暑い。
夏が始まるんだなぁ、なんて考えながら歩いていると、後ろから声をかけられた。
「お嬢さん、こんな時間に何してるの?」
ちょっとびっくりして振り返ると、三宅さんが立っていた。
「三宅さん」
「ひさしぶりー」
「誰かと思った!」
「ごめんごめん」
笑った顔は、数週間前に見たまんまだった。
「なんだか、有名人ですね」
「おかげさまで店はめっちゃ混んでるよ。テレビの力ってすごいな」
「遠い人になったみたい」
「え?」
思ったことがそのまま口に出てたらしい。
三宅さんは不思議そうな顔をした。
「隣歩いてるのに?」
「…なんか、ちょっとだけ」
ほんとはちょっとなんかではなかったけど、なかなかお店では会わなくなって。なんなら今日あったのは岡田さんからお土産をもらった日ぶりだったし。このまま一息処にも来なくなってしまうんじゃ無いかとか、勝手に心細くなっていた。
「そんな思いさせてたんだ」
「いえ、私が勝手に寂しいなーって思ってただけで」
「寂しかったの?」
「あ、」
そっか、寂しがってくれてたのかって、三宅さんは嬉しそうに笑った。
「ちょっと、なんで嬉しそうなんですか」
「だって、嬉しいんだもん。そっかー、寂しかったのかAちゃん」
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いちご(プロフ) - たすくさん» とても好きな作品です。いつか続きが読めることを心待ちにしております…! (2022年1月13日 6時) (レス) id: c0a7076b19 (このIDを非表示/違反報告)
丸メガネ(プロフ) - この小説本当に大好きです。たすく様の続けやすい更新頻度で頑張ってください。応援しています。 (2021年11月27日 13時) (レス) @page32 id: d2b1880b5d (このIDを非表示/違反報告)
さっぷる(プロフ) - たすくさん» 更新とご返信、ありがとうございます!今回も素敵なお話で、益々続きが楽しみになりました!ご自分のペースでゆっくり更新なさってくださいね〜! (2021年8月24日 2時) (レス) id: 0ad332718e (このIDを非表示/違反報告)
たすく(プロフ) - さっぷるさん» さっぷるさん、いつもコメントありがとうございます。やっと更新することができました。これからも楽しんでいただけると嬉しいです! (2021年8月22日 23時) (レス) id: 33661927ce (このIDを非表示/違反報告)
たすく(プロフ) - NAOさん» NAOさん、コメントありがとうございます。そしてお久しぶりです。読み返していただいているなんでありがとうございます...!これからもちょくちょく更新していくので、楽しみにしてもらえると嬉しいです^ ^ (2021年8月22日 23時) (レス) id: 33661927ce (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:たすく | 作成日時:2019年4月28日 17時