親愛なる君へ

突然 ページ14

「別れる...？」
「うん」

前から、きっと彼女はいつかこれを俺に言おうと思っていたんだろう。
いつから考えていたんだろうか。

驚きとは反対に、冷静に考えている自分がいた。

「...やっぱり、俺は邪魔かな？」
冷静なのに、口から出てくる言葉は稚拙だった。

「違う」
「じゃあ、待ってても、」
「ダメ」
「なんで」

そういう自分がひどく大人気なくて、それに対して意志の堅い彼女はやけに大人びて見えた。

「帰って来たくなっちゃうの。昌さんが好きすぎて。本当はずっとそばにいたくて。でも仕事も好き。」

彼女に気持ちが痛いほど伝わってくる。

「いつになるかわからないけど、やり遂げたら私は迷わず昌さんのところに行く。でも待ってないで。いい人がいたら私のことは気にしないで。その時は1番のファンになって昌さんに会いに行く。」


彼女の決意はもう固まっていた。
俺が何か言って変わるものではなかった。
そして何より、彼女を応援したいと思った。

「それでも、」
俺の言葉に彼女が顔を上げた。

「それでも帰って来たくなったら、俺のところにおいで」

そういうと彼女は、昌さんの悪いところは優しすぎるところだよね、と笑った。


出発日を聞いたけれど、見送りもいらないと言った彼女を尊重して空港へは行かなかった。



誰にも邪魔されたくないという思いから、思えば写真も撮っていなかった。
俺の手元に残ったものは何一つなかった。

彼女のLINEも消えていた。
情けなくもトーク履歴を消すことはできなかった。



突然の別れに、まだ頭がついていかない。

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