9 ページ9
……確かに偏差値は低いわけじゃない。なんなら高いとすら思う。
だけど、だからこその欠点がある。
意識が高くて、自分の意見を他人に良くも悪くもぶつける、そんな人が多い。自分に自信を持ってる。
だから私みたいな人が行くと逆に馴染めない。生半可な気持ちではいれないということ。
私はそれが窮屈でしかたなかった。私には彼らの持つものがないから。
持ってるものといえば、同じくらいの学力だろうか。
思い浮かべるのすら嫌になって、すぐに思考を現在に戻した。
そして私のことから離れるように、話題を彼に移した。
「千切くんはどこの高校なの?」
「羅実。あっちの方の高校」
千切くんはジャージにプリントされている学校の名前を指差しながら、私に教えてくれた。
羅実って、確か羅古捨実業高校の略だった気がする。あまり私は聞いてこなかった高校だけれど、割と近くにあるのかもしれない。
彼の話に耳を傾け、少しぼんやりとそんなことを考えていると、また違った声が私を呼んだ気がした。
『ニャー』
「……あれ、クロ?」
クロの声が聞こえたと思い、先程いた場所に目を移すも、そこにあの黒い姿はなくて。
それに気づいてあたりを見回せば、金色の目が後ろにあった。
顔はこちらを向いているけれど、体は後ろの方を向いていた。
後ろの方に進めば家があるから、きっと帰ろうと私に呼びかけているのかもしれない。
「ど、どうしたんだろ」
「帰ろうって言ってんだろ。じゃあまたな、A」
私が考えていると、千切くんも一言告げたあとこの場を去って行ってしまう。
「う、うん。じゃあね千切くん」
私もつられてそんなことを口にした。
そしてすぐに塀の上を行くクロの隣につく。
またな、なんて言われたのはいつぶりだろうか。私自身も久しぶりに言った気がする。
私達クロ繋がりで偶然会っただけに見えるのに。
高校も違うし、何も接点なんてない。
昨日会ったばかりだけど、不思議な関係性だと感じざるを得なかった。
「クロがあんな男の子と会ってたなんてね」
私がそう話しかけてみても、クロは何も答えずに塀の上を軽やかに歩く。
その時ばかりは高校選びを間違えたことも、委員会に入ってを後悔したことも、全て忘れられた。
青から赤く変わっていく、不思議な空の下。
私は初めて、一人と一匹で家へ帰った。
4人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:エネマリ | 作成日時:2023年4月2日 19時