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私は耳を疑った。
こんな私に、彼は何かをくれるってこと?
それが虫とかゴミなどで悪意があれば話は別だが、多分これは善意によるものだろう。
今この時が夢なのではないかと全てを信じられなくなりそうになったが、彼の瞳を見ていると現実だとしか思えなかった。
「私に……?」
「うん。コンビニ寄った時に思い出したんだ、お前のこと」
これコンビニに売ってるんだ。初めて知った。
ということは、いつもコンビニで買ったものをクロにあげてるってことか。
まあ昨日のことだし、クロを思い浮かべたら飼い主の顔が出てくるのもおかしくない。
この食べ物を渡されるくらいの小さなやり取り。その感覚がなんだか懐かしくて、私は薄く微笑んだ。
「ありがとう。ごめんね、また今度ちゃんと埋め合わせするよ」
「別にいいぜそんなの。見返り求めて渡したわけじゃねえし」
彼は飄々とした表情でクロと向き合いながらさり気なくそんなことを言う。
別に彼が見返りを求めて私にくれたなんて思ってはいなかったけど、どこか悪い気がしてしまう。
彼はいらないと言っているけれど、必ずどこかで埋め合わせはしよう。私が納得するためにも。
私は心の中でそう誓った。
そして私がもらった物を鞄の中にしまい、もう一度顔を上げると男の子の顔はこちらを向いていた。
それから少し改まったようにして言葉を私に向けた。
「あのさ、お前なんていうの?」
「え、あ、名前?」
何を言ってくるかと思えば、そんなことか。
でも名前なんて知ってどうするんだろう。何にもならないと思うけど。
クロとセットで覚えるためだろうか。
「Aだよ」
「Aか、わかった。俺は千切豹馬。千切でいいから」
私が名乗ると、彼も名を名乗ってくれた。
千切豹馬。千切くんでいいか。
でももしかしたら私よりも年上かもしれない。そしたら学校は違えど失礼になる気がする。
ここは私も勇気を出して、年齢を聞き出そうと試みた。
「私高校一年生。貴方はいくつ?」
「俺も高一。タメだな」
千切くんは小さく笑みを浮かべて私に返した。
同い年なのであれば、敬語もさん付けもしないで済む。何より話しやすい。
私はなぜだか同い年なのが嬉しかった。
「どこの高校行ってんの?」
「えっと、すぐそこの
私がそう言うと、彼は『そこそこ頭いいとこじゃん』と反応してみせた。
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作者名:エネマリ | 作成日時:2023年4月2日 19時