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「何あげてるの？」
「かりんとうまんじゅう」
かりんとうまんじゅう？
世間知らずなだけだろうか。それか時代遅れ。
私はその食べ物を耳にしたことがなかった。
まんじゅうだとしたら、あの口につけて帰ってきてたのは小豆だったのかもしれない。そう考えたらなんか納得できる。
私はそれをよく知らなかったけど、聞くのもなんだか気が引けて、適当に頷いておいた。
「そ、そうなんだ。好きなの？そのかりんとうまんじゅう」
私がそう聞くと、彼は『うん』と割と即答した。
たまたま持ってたのをクロが欲しいと言ったのだろうか。だとしたら本当に申し訳ないんだけど。
というかこうなってるのも全部私がしつけをできてないからでは……？
もしかして、私には猫を飼う才能が著しくないって事だろうか。
じゃあメダカでも飼ってろってこと？
ダメだ。
私は自信を無くすまいと、そう考えることをやめた。
「ねえクロ、そろそろ帰ろうよ」
もう時期日が暮れる。あんまり夜遅くまで外に出てると変な人に絡まれてしまう。治安がいいかと聞かれたら、そうではないから。
私は抱きかかえて帰った方が早いと思い、そっとクロの方へ両手を向けた。
その瞬間、クロは顔にしわを寄せて口を珍しく開いた。
『シャー！』
「うわあああ！！」
いつもは無言で噛んだりなんたりしてくるクロが、急に威嚇の鳴き声を上げた。
そしてあろうことかそれと同時に私に噛みつこうとしてきたのだ。
私はそれにびっくりしすぎて、思わず大きく叫んで後ろに下がった。
こんなクロ初めて見たかもしれない。というか今まで本性を隠してたってことだろう。
これぞ本当の猫被りだ。
私は飛び出そうになって心臓をの辺りに手を当て、乱れた呼吸をすぐに直す。
しかし、すぐ隣の方からは何故か笑い声がして。
「ははっ、お前らほんと仲悪いんだな！マジな叫び声だし」
「うん。相性最悪だよ。ほんとびっくりした……」
クロは先程とは打って変わってまた澄まし顔に戻っている。ある意味情緒不安定なのだろうか。
本来はあるであろう主従関係がないこと、天性の仲の悪さ、さっきの心からの私の叫び。
これらの連動により、恐らく彼は笑ってしまったんだろう。
……いや、これ面白いか？
でも笑っている彼を見ていたら、別に不快な気分にはならなかった。
私も彼の眩しい笑みの前で、一緒に微笑んだ。
ここで出逢えたのは、何かの運命だったのかもしれない。
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作者名：エネマリ | 作成日時：2023年4月2日 19時
