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クロは不思議な猫だ。
だからかはわからないけど、クロは雨が降る日は決まって、朝から外に出ようとしなかった。
猫だから水に濡れるのが嫌いなんだろう。

未来予知でもできるのだろうか。そうだったら私の未来も見てほしい。


……そんな願望は置いておいて。


あのストイックなクロが家にいないのは普通におかしい。
まあ気分屋だからそんなことはあるんだろうけど、外にいるんだとしたら今凍えているかもしれない。雨に濡れているかも。


それでもしも風邪をひいたら、病院に連れて行かないとならなくなる。それは流石にクロも私もお互い嫌だという意見が一致すると思う。


それに雨だと視界は悪くなるから、車に轢かれるなんてことも考えられなくはない。
事故に巻き込まれたりなんかしたら、せっかく仲良くなりかけてた関係がやり直しになってしまう。


私はそう思うといても立ってもいられなくなって、傘も持たないまま外に駆け出した。



外は出た瞬間濡れる感覚がわかるくらいに、もう雨は強くなっていた。
そして人気(ひとけ)のない住宅街を走り回り、前に回った心当たりのある場所を探した。


そしてすぐに、傘を持ってこなかったことを後悔した。もう後悔しかない人生だ。
そう自分に呆れながらも、必死に探した。


クロは元々私の『猫を飼いたい』という要望によってうちに来た猫だ。両親は私がちゃんと世話をするなら、という理由で了承してくれた。

こんな所で親からの評価を下げたくないし、クロの葬式なんて一生したくない。


そんな思いで走り続けていると、目の前に見知った人影が見えた。


「あ、千切くんだ」


思わず動いた口をすぐに閉ざし、周りを見回す。幸い、私達以外にこの路を歩いている人はいないようだった。
独り言を他人に聞かれるとか、屈辱でしかない。心底安心した。


そして一つ思った。千切くんならもしかしてクロを知っているかも。


私はそう思って傘をさして歩く千切くんの方に向かうと、彼も私に気づき、顔をこちらに向けた。


「あ、あのね!!」


「どうしたんだよそんな慌てて。てか傘は?」


びしょ濡れでしどろもどろとする私に、彼は少し目を見開いて反応した。


髪もシャツも何もかも濡れているが、なぜか今は寒さをあまり感じられなかった。

家に帰ったら絶対にすぐシャワーを浴びよう、そうしよう。
私は心からそう誓った。

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作者名:エネマリ | 作成日時:2023年4月2日 19時

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