第四十四話 ページ46
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「安心したまえ。君は優秀だ。だからそんなに心配せずとも、捨てる事などしないよ」
え?なんで?
わざわざ”捨てない”なんて云ったという事は、”心配せずとも”なんて云ったという事は、私の気持ちがバレているということ。
可能な限り隠して来た筈だ。
なのに何故?
ぐるぐる、グルグル、思考が乱される。
「今回の件だって、君ならば恐らく時間さえあれば成功してみせただろう。探偵社も出てきて、しかもそこに太宰君がいたんだろう?
罰を与えない訳にはいかないが、この程度で君を捨てることはない。
捨てた方がポートマフィアにとって損失になるのだと私は考えているのだよ」
価値があると云われた。
捨てないと云われた。
それに伴う安心感と、この心に渦巻く醜い承認欲求を知られた事による絶望で、心が定まらない。
ぐるぐる、グルグル、ぐるグルグル
その時、ぽすっと足に何かが当たった。
見れば、エリス嬢が足に抱きついている。
「大丈夫よ、A」
しゃがむように
頭が混乱しているせいで、撫でられているという事に気がつくのに少々の時間を要した。
「大丈夫よ、大丈夫。誰も貴女を嫌いになったりなんてしてないわ。
私も、リンタロウもね。だから落ち着いて。大丈夫だから、ね?」
『………ほんと、です、か?』
やっとのことで喉から絞り出した声は、酷く掠れていて、自分でさえ聞き取れない程だ。
「本当だよ」
そう肯定したのはエリス嬢ではなく、いつの間にか側に来ていた首領。
「君が自己承認欲求を
それでも、君を嫌いになってはいない。
君は必要とされている」
みんな知ってた?
でも、嫌いになってない?
本当に?
「そもそも、その程度で嫌いになったり、不必要になるような人間を、私が五大幹部に任命する筈がないだろう?」
どんな慰めの言葉よりも、合理主義である首領らしい言葉がストンと心に落ちて、なんだか安心出来た。
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作者名:安蒜 佑 | 作成日時:2020年3月11日 22時