第四十一話 ページ43
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断続的に聞こえていた爆発音と、殴り合う音、芥川先輩と人虎の会話はもう聞こえない。
人虎の叫び声と共に響く打撃音の後、ドボンと音がして、それっきり音は聞こえなくなった。
ポケットから携帯を取り出して、芥川先輩の部下である樋口さんに繋ぐ。
『もしもし、樋口さんですか?朱殷です』
〈朱殷幹部!?どうされましたか?〉
『芥川君が人虎と戦い、敗れました。海に落ちてしまっているようですので、回収して下さい』
〈え?芥川先輩が!?わかりました、すぐに向かいます!それでは、失礼します!〉
『はい。頼みましたよ』
相手の方から通話が切られたことを示す機械音が流れる。
上位の者より先に通話を切ってしまうのは失礼にあたるが、彼女は芥川先輩が大好きだと聞いているので、それほど焦っていたのだろう。
懸念していた通り、失敗。
芥川先輩が人虎を殺そうとするのではないか、とは懸念していた。
盗聴器で聞いていれば、命令は生きた状態を相手に渡すことだったのにも関わらず、堂々と「貴様を生かして渡す気など無い」と云ってしまっていたし。
鏡花も港に置いて置かずに連れて行くし。
恐らく、光を見せた本人を目の前で殺す事で絶望させようと思ったのだろうが。
だが、真逆、芥川先輩が人虎に負けるとは思っていなかった。
彼は強い。ポートマフィア内外から恐れられる程に。
異能を意識したのさえ最近の人虎に負ける筈がないのだ。
でも、実際は負けた。
芥川先輩の頭に血が登っていたというのはあるだろう。だが、それだけでやられるほど弱くはない。
とすれば、余程人虎が強かったという事だ。
芥川先輩は中距離型、人虎は近距離型というのもあっただろうが、負けは負けだ。
その戦力が探偵社に渡ってしまうのは避けたかった。
さらに厄介な存在になってしまうではないか。
時間さえあれば、人員の交代も出来ただろう。
だが、取引の期限は本日6時。
期間の短さ故に強行突破しようと事態を甘く見た結果がこれだ。
責任は私にある。
中也兄ぃに一言断って、私は首領室へと向かう事にした。
失敗は明らかだ。
重要な案件であったのだから、失敗報告だけでもするべきだろう。
報告書の前に、なるべく早く簡単な報告だけでもしてしまいたい。
今回、悪いのは私だ。
任された仕事を失敗したと首領に告げるのが怖くて、私の足は中々前に進んでくれなかった。
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作者名:安蒜 佑 | 作成日時:2020年3月11日 22時