第四十話 ページ42
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不意に、中也兄ぃが云う。
「そういや、人虎の件、なんで芥川からお前担当になったんだ?」
『恐らく、私に経験を積ませるためかと。首領の考え全てを見通す事は私にはできませんが、大きい事案も経験すべきと考えたのだと思います』
どうやら、最初は全て芥川先輩主導でやる予定だったらしい。
中也兄ぃに連絡が行ったのはその時。彼が知らなかったという事は、その後に首領が私に任せることにして呼び出したのだろう。
何故急に考えが変わったのかは分からないが、あの首領のことだ。
きっと何か考えがあってのこと。
「でも、まぁ、お前が考えた計画なら上手くいくだろ」
楽観的にそう云いながら、中也兄ぃは私の髪をクシャッと混ぜた。
さっきは優しく撫でて貰った頭は、同じ手によってぐしゃぐしゃにされたようだ。
手を頭の上からどかしながら、その言葉を否定する。
『……もしかしたら、難しいかもしれないです』
「?なんでだ?お前だって計画立案には慣れて来てるだろう?」
『いえ、今回は不確定要素が多すぎました』
太宰治を捕らえたことは後悔していない。
彼の行動が予測不可能であり、此方の妨害をされる可能性が非常に高かった事。
ポートマフィアに対する脅しという切り札を此方がコントロールした上で早めに出させたかった事。
その目的は達成できた。
だが、芥川先輩が彼と接触してしまった。
芥川先輩がどれだけ太宰治に執着しているかは聞いていた筈なのに。
想定以上だった。
今、彼の精神は恐らく酷く不安定になっている。
『芥川先輩が太宰治への執着心のあまりに暴走してもおかしくない状態です』
「あいつ、独走癖あるしなあ」
『はい。あと、泉鏡花が恐らく人虎の味方をします』
「はぁ!?」
泉鏡花に仕掛けていた盗聴器が拾った人虎との会話で、彼女が随分と人虎に懐いているのが確認出来た。
元々、殺しを嫌がっていたのだ。光を見せられて、目が眩んでもおかしくはない。
ため息をつきながら、私は片耳に黒いイヤホンをはめた。もう片方を中也兄ぃに差し出す。
「なんだ?」
『聞きますか?盗聴器に繋がっています』
「誰の?」
『芥川先輩につけたやつです』
「お前、芥川にもつけてンのか?」
『だって、今にも人虎を殺しそうな目をしてたんです。心配じゃないですか』
渋々、中也兄ぃがイヤホンをつけた瞬間、爆発音がして、思わずイヤホンを取った。
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作者名:安蒜 佑 | 作成日時:2020年3月11日 22時