猿芝居 (ページ20)

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望津璃染邦は決めていた。少しずつ、少しずつ、トランプでタワーを作るように。慎重に、自然に取り入っていこう。信頼を得よう。立場を作ろう。権力を持とう。蜘蛛の巣のように、自分という存在を、人間たちの内側に張り巡らせていこう。細く長く、丈夫に、器用に。自分にはそれができる。望津璃染邦は知っていた。
辛抱強くいこう。何十年でもかけよう。一番大事なのは土台作りだ。そこで焦ればすぐに何もかもが崩壊する。それこそ、少しの風に吹かれたトランプタワーのように。麻袋に詰められた紫の肉塊のように。ピンクのリボンにくくられた枯れ枝のように。

望津璃染邦は、ペンを握った。
望津璃染邦は、支配者になった。
望津璃染邦は、これから先、〝望津璃染邦〟でもなく、〝グリーン〟でもなく……

＿＿＿ドロン！〝狸〟に化けることを、決めたのだ！

「俺は確実な方法をとる」
「これは夢でも野望でもない」
「俺たちが必ず行き着く先だ」

「数十年後、ここは俺たちの世界になっている」

くるり、くるり。重くなったペンが華麗に回る。
＿＿一筆(いちふで)。書き始め、紙に押し付けたインクがあまりにも弱々しく、何度文字の形をなぞっても笑えるほど文字にならないものだから、狸は思わず仰け反って大笑いをし、床に倒れた。

「ハハハ……！」

……馬鹿野郎が。俺はゴミ箱じゃないぞ。
ペンを壁に投げつけようとして、何とか強く握りしめるだけに収める。いつだって俺たちは監視されているのだ、一挙一動も誤ってはいけない。

そりゃそうだ。そんなに上手くいくわけがない！ばあか。ばーーーか。

ペン先を親指の腹でぐりぐりと潰す。
これから続く長い長い日々に思いを馳せ、そのペン(ゴミ)にキスをした。