ただ、君を抱き締める【亮side】 ページ29
「おめでとう！」
Aがそう言って俺の両腕をつかむのが
思ったよりも早くて面食らった。
俺の次の言葉が出るより前に、
「応援してるね？
ずっと、ずーっと応援してるね？」
そういって
にっこりと笑った。
その言葉を聞いて、
俺は君がすべてわかっていることを感じたんだ。
【デビューの条件は一つ。
身の回りをきれいにしてきなさい】
午前中、
事務所から言われたことだった。
分かり切った、
ことだった。
そして、
俺に選択肢は、
なかった。
明日の朝イチには東京へ戻る。
デビューの件は、
いつ発表されるかわからない。
俺の口から、絶対に伝えたかった。
「また会えるよね？」
そう聞かれれば、
俺はきっとうんと答えただろう。
でも、
きっとその約束は果たせない。
俺が、俺たちがもっと子どもだったら。
「待ってて」っていえたのかもしれない。
将来を、約束できたのかもしれない。
でも、
そこまで無邪気な子どもではなくて。
かといって、
２０歳にも満たない俺が
いつか迎えにいくなんて、
嘘でも言えなかった。
君にも、僕にも
あまりにも果てしなく
広い未来が広がっているからこそ、
約束なんてできなかった。
何度も「また、会いに来る」
そんな言葉が口から出そうになった。
でも、
そんな不確かな口約束で
Aを縛りつけたくなんてなかった。
だから、、
『ありがとう。
頑張って…くるわ。』
そういうのが精いっぱいだった。
「亮君なら、
絶対成功する。
いっぱいテレビ、出てね？」
限界だった。
横にいる華奢な君を
ただ、目いっぱい抱きしめた。
「・・・A。」
涙声をこらえるのと、
自分の気持ちを抑えるのに必死だった俺は、
あの時の最後の君の顔をあほらしいくらい覚えてない。
泣いていたのか、
笑っていたのか、
それすらも、
思い出せないんだ。
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作者名：∞mii∞ | 作成日時：2015年9月27日 21時
