３５３話 ページ10
重い足取りでホテルに戻ってくる。
ゆっくり休むんだよ、というブライアンと別れて、自分の部屋へ。
｢あれ？ハビ、ゆづくん｣
結弦｢おつかれ｣
ハビ｢A、おかえり｣
｢二人ともどうしたの？｣
ハビ｢Aの帰りを待ってたんだよ｣
｢……慰めようとしてくれてる？だったらそんな気遣いいらないよ。あれが今の私の実力だから｣
２人の気持ちは嬉しいけど、気を遣われることほど惨めなものは無い。
結弦｢それは知ってる。別に今日の演技のことをどうこう言うつもりは無いよ｣
｢じゃあ何？｣
あまり人と話す気分じゃない今は、正直放っといて欲しい。
ちょっと苛立ちながら返すと、ハビがいきなりギュッと抱きしめてきた。
ハビ｢A、失礼なことばかり聞く大人の言うことなんて気にしないで。きっと彼らは、君のことを何も知らないんだ。どれだけ悩んで、どれだけ努力してきたか｣
｢でも、勝負の世界って結局は結果がすべてでしょ……？結果を出せなかったら、どんなに頑張ってきたって、｣
結弦｢そんなこと無いよ！確かに俺たちって結果を求められる世界にいるけどさ。そのために努力しているってことを認めてくれる人も、周りにはちゃんといるんだよ｣
2人の言葉が、荒んだ心にじんわりと響く。
｢もう……ハビもゆづくんも優しいなあ｣
ハビ｢僕もユヅルも、Aが大好きだからね｣
｢私も大好きだよ。2人ともありがとう。……本当は、すごく悲しい気持ちでいっぱいだったんだ｣
ハビ｢そうだよね。Aはまだ16歳なんだ。まだまだ周りの助けが必要な子に、あんなに情け容赦無く言葉を投げかけるなんて、仕事とはいえ、いい大人がすることじゃないよ｣
｢でもね、一番悲しかったのは自分のことじゃないの。ゆづくんまで私と同じようにコンディションが悪いって言われたのが悔しいし、悲しい｣
なにかと私とゆづくんはセットで見られるけど。
結果だけを見て、ゆづくんまで悪く言われるのは納得いかない。
｢ゆづくんごめんね。私のせいでゆづくんまで悪く言われちゃった｣
結弦｢ううん。俺は全然平気だよ。だから自分のこと、そんなに責めないでよ｣
困ったような顔で笑いながら、優しく頭を撫でてくれる。
｢ありがとう。私、フリーで見返せるように頑張るね！｣
ハビ｢それでこそAだよ｣
ハビが優しく笑いながら頭を撫でてくれる。
帰ってきた時には重たかった気分も、今はかなり軽くなった。
2人がいてくれて良かったな。
３５４話《世界選手権2014 男子FS》→←３５２話【結弦side】
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作者名：優里奈 | 作成日時：2021年7月18日 15時
