氷上で煌めく太陽８ (ページ9)

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３５２話【結弦side】ページ9

真央ちゃんはオリンピックの悔しさを晴らすような演技だった。
２位のコストナーをわずかに上回ってショートでトップ。

いい顔してるな、真央ちゃん。

明子さんも、明子さんらしい優しさあふれる演技。

Aちゃん、すごく悔しそうだった。

今の自分が出来る一番の演技をする、そう言って笑顔で試合に向かっていったけれど。
まだ体のキレは戻りきってなかったみたいで、全体的に精彩を欠いた感じが伝わってきた。

｢頑張った｣っていう言葉を掛けられてもAちゃんは満足しないだろうな。

それよりAちゃんのメンタルが心配。

試合後のインタビュー、あれは俺でもキツイなって思う。

今シーズン、グランプリファイナル、全日本、オリンピックと大きな大会を制覇してきた選手に期待するのは分かるけどさ。

Aちゃんはまだ16歳の女の子だよ？

たった16歳の子に、大人のエゴを押し付けてどうするんだよ。

結果を出すのが勝負の世界だけど、Aちゃんだって一人の人間なんだ。
毎回トップに立つわけじゃない。

テレビの向こうで、うつむき加減でインタビューを受けるAちゃんの顔が頭から離れない。

俺がどうにか出来ることじゃないけど。

居ても立ってもいられなくて、Aちゃんが帰ってくるのを部屋の外で待つことにした。

部屋を出るとちょうどハビも出てきたところだった。

ハビ｢ユヅル！ちょうどよかった！いま君の部屋に行こうかと思ってたんだよ｣

結弦｢どうしたの？｣

ハビ｢Aを元気づけてあげたくてね。ユヅルも一緒にどうかなって誘おうと思ってたんだ｣

結弦｢なんだ。ハビも俺と同じこと考えてたんだ(笑)｣

ハビ｢そうなの？｣

結弦｢うん。Aちゃんにはいつも笑っていてほしいからね｣

ハビ｢ユヅルは本当にAのことが大好きだね！｣

結弦｢え！｣

ハビ｢あれ？違うの？前にAのこと『かわいい妹が出来たみたいだ』って嬉しそうに言ってたじゃないか｣

結弦｢ああ……(笑)｣

焦った(笑)
ハビにもバレてんのかと思ったよ……。

ハビ｢Aは僕にとっても妹みたいな大事な子だよ。2人でAを守ってあげよう｣

結弦｢そうだね……｣

Aちゃん、辛いこともあると思うけど、近くにはこうやって君のことを大切に思ってくれる人がいるからね。