３７２話 ページ29
バンケット会場からホテルに戻ってきて、やっと緊張がすべて解けたような気分。
この先は、アイスショーの出演がたくさん控えている。
毎週末にショーがあるから、試合以上にハードかもしれない。
それでも採点のないショーだから、気を楽にしてスケートを楽しめるのは好き。
｢っくああ〜！頑張った……！！｣
楽ちんな部屋着に着替えてベッドにダイブ。
オリンピックから世界選手権まで、かなり濃い時間を過ごしてきたな……と今年に入ってからの出来事を振り返る。
疲れたし、怪我してしんどい思いをしたときもあったけど。
｢楽しかったな……｣
世界のトップクラスのスケーターと競い合えたことはもちろん、色んな国の人と交流もできた。
勉強になることもたくさんあったし、いい思い出がたくさんできた。
そして。
結弦『Aちゃんが好きだよ』
思わぬ壁にもぶち当たった。
恋愛なんてしない、必要ないって思ってた。
スケートをしている間は、自分は誰も好きにならない。
そう決めていたけれど。
誰かに想われるという逆のパターンは、考えたことなかったな。
どうしたらいいかわからなくて、とりあえず今の自分の気持ちをありのままに伝えたけれど。
これで良かったのかな？
よく考えたらさ、練習場が同じだから仕方ないとはいえ、振られた相手と毎日一緒にいなきゃいけないって、かなりしんどくない？
たぶん、私がゆづくんの立場だったら無理。
普通になんてしてられないよ。
もしかしてゆづくん、かなり無理してるんじゃ……！？
そう思ったら居ても立ってもいられなくて、隣のゆづくんの部屋のドアをノックしていた。
結弦｢Aちゃん、どうしたの？｣
｢あの……ゆづくん、私と一緒でしんどくない？！｣
結弦｢へ？｣
｢だって、一応、振ったわけだし……そんな人と毎日顔合わせなきゃいけないって、きつくない！？私、ゆづくんの邪魔になってない！？｣
結弦｢ちょ、Aちゃん落ち着いて｣
｢だって、私がゆづくんの負担になってるんじゃないかって思ったら、じっとなんてしてられなくて……｣
結弦｢バンケットから帰ってきて、どうしたらそういう思考に行き着くの(笑)……大丈夫。俺はしんどくないし邪魔だとも思ってないから｣
｢ほんと？｣
結弦｢うん。Aちゃんはスケート仲間として最高の人だよ｣
だから余計な心配してないで早く寝なさい。
そう言って笑うゆづくんの優しさに、胸が少しキュッとなった。
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作者名：優里奈 | 作成日時：2021年7月18日 15時
