３５９話【結弦side】《世界選手権2014 EX》 ページ16
世界選手権も最終日。
今日は朝からエキシビションのリハーサルがある。
ハビ｢Aと一緒に滑れるなんて嬉しいよ｣
｢私もハビとは初めてだから楽しみ！｣
ハビ｢今日は思いっきり楽しもう｣
｢わ！ハビ！｣
手袋を嵌めて準備をしている俺の横で、Aちゃんの肩を抱いて頬にキスをするハビ。
ハビは本当に嬉しそうで、満面の笑みでAちゃんを見つめている。
それはもう、愛しい恋人を見るように。
恋人？
いやいやいや。
ハビ、恋人いるし。
恋人とかそんな変な想像をしちゃうのは、こういうハビみたいなストレートな感情表現に慣れてないからだ。
でも……もやもやする。
いくらハビでも、あんなにベタベタしてるの見るといい気はしない。
だからといって、2人の間に割って入る権利は俺にはない。
Aちゃんと俺は、ただの仲間だから。
悶々とした気持ちをどう処理してくれようかと考えあぐねいていると、スーッと静かに近づいてくる人の影。
真央｢なーに怖い顔してんの？｣
結弦｢べつに、怖い顔なんて｣
真央｢どうせAちゃんのこと見てたんでしょー？めっちゃいい感じだもんね｣
結弦｢いい感じも何も、ハビは彼女いるからそんなんじゃないよ｣
真央｢でもゆづ、さっきからAちゃんのことばっかり見てるよ。とられるんじゃないかって心配なんでしょ？好きなら積極的にいけばいいのに｣
結弦｢積極的にいってフラれたの、知ってるくせに｣
真央｢だって、諦めないんでしょ？嫌われたけじゃないからって、前にゆづ言ってたじゃん｣
言った。
確かにまだ好きだし諦めないって言った。
でも……
結弦｢現役の間はスケートが一番って言われたら無理だよ。同じスケーターとして、スケートが大事っていうの分かるもん｣
真央｢ゆづはスケートだとガツガツしてるのに、恋愛になるとなんでこんなにヘタレなの？物事を０か１００でしか考えられないの？｣
結弦｢え、どういうこと｣
真央｢ガンガンアピールするか、一切身を引くかしか出来ないのかって言ってるの。アピールにも程度ってもんがあるでしょ。真央が言いたいのは、日頃からさりげなく好きアピールしといたら？ってこと！あくまでもさりげなく！｣
小さな積み重ねが、後に大きな花を咲かせることもあるんだよ？スケートと一緒！
と力説する真央ちゃん。
言いたいことはなんとなく分かったけど……
さり気なくアピールって、どうやって？
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作者名：優里奈 | 作成日時：2021年7月18日 15時
