氷上で煌めく太陽８ (ページ13)

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３５６話《世界選手権2014　女子FS》ページ13

試合前の6分間練習。

リンクを周回しながら、ジャンプのタイミングや技のつなぎの部分の確認をする。

ある程度体が温まったところで、ジャンプの体勢に入る。

リンクを大きく使って助走をつけて、まずはダブルトゥループ。

うん。
大丈夫。

ソチから帰ってきてから不安定だったトリプルアクセルは、踏ん張る形で着氷したけどまあまあ。
いまので大体のタイミングはつかめたかな。

今日は調子がいい。
ソチの時ほどじゃないけれど、安定感は戻ってきたし動きのキレも問題なさそう。

あとは、今の自分のベストを尽くすのみ。

6分間練習が終わって、リンクサイドのブライアンの元へ。

ブライアン｢A、今日はいい顔をしているよ。きっと大丈夫だ。楽しもう｣

｢ＯＫ｣

最終グループ４番滑走の私は、名前をコールされてリンク中央へ。

会場いっぱいに入ったお客さんが、バナーや国旗を振って頑張れー！と応援してくれる。

ショートの結果を覆すくらいの演技を見せたい。
たくさん励ましてくれたハビとゆづくんの気持ちに応えたい。

そう思いながらポーズをとる。

今シーズン最後のテンペストが、今はじまった。

２シーズンを通して演じてきたこのプログラム。

いろんな思い出が詰まった、大好きなプログラムだ。

たくさんの大会を戦ってきて、この曲でいくつのメダルを獲ってきただろう。

今シーズンのラストも、納得のいく演技をして終わりたい。

後悔のない滑りを―――

｢はあ……はあ……｣

４分間の戦いが終わった。
無我夢中だった。

ジャンプも、ステップもスピンも、今できる一番のものを出せたと思う。

ブライアン｢A、素晴らしかったよ｣

｢ありがと……｣

今までにないくらい息が上がってる。
これじゃ、ゆづくんのこと言えないな。

いま私に出来ることはじゅうぶんやれたと思う。

あとはそれがどうジャッジされるかだ。

キスクラでは息を整えながら会場の声援に応えて、得点の発表を待つ。

《加賀美さんの得点……》

ブライアン｢ワーオ！A！やったね！｣

｢ブライアン〜！｣

２人の滑走者を残してフリーは１位。
総合でも暫定１位になって、私の、銅メダル以上が確定した。

これまで不安なこととかたくさんあったけど、今この瞬間に少し報われた気がした。

そう思ったらホッとして、涙が静かにほっぺたを伝った。