2話 ページ2
柳田「プッ(笑)加賀美さん、顔が変ですよ?」
「失礼な!もとからこういう顔ですっ」
そもそも柳田さんがぶっ込んでくるからでしょうが!
という私のツッコミも気にすること無く、柳田さんはじっと画面に見入っている。
柳田「すごいですね……羽生さんは。直前の大怪我にも負けないで、見事に有言実行をしてみせた。精神力が強い人です」
「……そうですね。そうじゃないとオリンピック連覇なんて出来ないと思います」
ちがう。
ちがうんだよ、柳田さん。
ゆづくんは、本当は強くなんかない。
弱くて、いまにも崩れてしまいそうな脆さもあるんです。
そんな自分に負けるのが嫌だから、心を奮い立たせてギリギリのところで戦ってるんです。
柳田「さて。もう少し連覇の余韻に浸っていたいところですけど……リハビリの時間、過ぎてますよ?」
「えっ?」
時計を見ると、リハビリ開始予定の時間から15分ほど過ぎていた。
「わー!ごめんなさい!行きましょう!」
柳田「残り時間が少ない分、今日はハードですよ」
「えー、やだぁ……」
柳田「やだ、じゃありません。さ、行きましょう」
「柳田さんの鬼……!」
柳田「わざわざ迎えに来てくれるなんて、これ以上ないくらい優しい鬼で良かったですね」
くそー。何をいっても飄々と交わされてしまう。
でも。
柳田「リハビリ室までなら、これでどうぞ」
そう言って渡されたタブレット。
画面にはさっきまで見ていたスケートの中継が映っていた。
「え、柳田さん優しい」
柳田「だから言ったでしょ。優しい鬼で良かったですね、って。僕としてはわざわざ『元カレ』の映像をみせるなんて鬼畜かなって思いましたけど」
「元彼を強調するあたりはやっぱり鬼ですね」
柳田「そんな事言うならタブレット返してください」
「わー!見ます!ありがとうございます!」
結局柳田さんとのやりとりでじっくりは見られなかったけど、ゆづくんとハビ、そして昌磨くんが抱き合う感動的なシーンを見られて、やっぱり試合っていいなって思った。
私もしっかりリハビリして、来季は必ず復帰しよう。
そう心に誓った。
‥
「疲れた……」
柳田さんの言う通り、15分ロスしたぶん、今日のリハビリはめちゃくちゃハードだった。
お姉ちゃんの迎えを待っている間、スマホのメッセージの確認をしていると新着のメッセージが1件入ってきた。
送信元は、ゆづくん。
あの日、ゆづくんの家でサヨナラをして以来2ヶ月ぶりだった。
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作者名:優里奈 | 作成日時:2023年10月28日 9時