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《羽生結弦!2大会連続の金メダル!実に66年ぶりの快挙です……!》
テレビの向こうでは、大歓声に包まれながら涙を流す彼の姿。
ここにたどり着くまでに、どれだけ苦労してきただろう。
どれだけ身を削って頂点を目指してきたんだろう。
演技中の鋭い眼差しが一転して、まるで泣き虫の子供みたいな顔で「ありがとう」と感謝の思いを伝える姿は、同一人物とは思えないや。
そして。
銀メダルの昌磨くんと、銅メダルのハビ。
何かと縁のある3人が表彰台にあがるなんて、なんだか凄いものを見た気分。
よかった。
ゆづくんの目標が達成できて、本当によかった。
私もカナダを離れた甲斐があったかな?なんて調子のいいことを思ったりして。
「おめでとう。ゆづくん」
本人には届かないけど、画面の向こうで泣いてるのか笑ってるのか分かんない顔をしているゆづくんに向かってつぶやいた。
??「あ、やっぱりここだと思いました」
「え?……あ、柳田さん」
柳田「スケートは見ないって言ってませんでした?少なくとも、僕は加賀美さんからそう聞きましたけど?」
「ははっ……」
柳田「まー、気になりますよね。僕だって仕事じゃなかったら見たかったですし」
そう言って私の隣に座ったのは、理学療法士の
私は日本に帰ってすぐ、東京のスポーツ外傷専門のリハビリ施設に通い始めた。
今日はそのリハビリの合間に、談話室のテレビで応援をしていたのだ。
柳田さんは、私のリハビリを担当している人。
私より10歳上で、「おじさん」「おこちゃま」なんてからかい合うくらい仲良し。
「柳田さんって、フィギュアスケート好きなんですか?」
柳田「好きってわけじゃないけど……興味はあるよね。こんなに華麗で優雅なのに、球技並みにトレーニングするわ足首や膝は酷使するわでさ。しかも女子はキラキラでスカートはためかせてるのに、ゴリッゴリのスポーツだっていうから不思議なんだよなあ〜」
「なんか……後半の方でディスってません?」
柳田「え?どこが?」
「いや……なんでもないです」
そうだった。
柳田さんはちょっと天然……でもないけど、素直さゆえにたまにハラハラする発言があるんだよね。
柳田「でも……それ以外にもスケートを見たかった理由はあるけど」
「え、なんですか」
柳田「加賀美さんの元カレが、どんなスケートをするのか。見てみたかったんです」
いきなりド直球でぶっ込んできたな。
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作者名:優里奈 | 作成日時:2023年10月28日 9時