氷上で煌めく太陽２２

１０４０話 ページ12

トロントに帰ってきてから初めてのリハビリ。

スポーツ外傷の治療に評判のある病院で、院内にあるリハビリセンターにはカナダ中からアスリートが集まるらしい。

トロントに住んで４年経つけど初めて知ったわ。




｢It's done!(終わったー！)｣


きっついリハビリメニューをクリアしたあと、嬉しくて思わず呟いた言葉に理学療法士さんが｢good job！｣と親指を立てて答えてくれた。


松葉杖を使いながら歩くのも、２ヶ月目ともなれば慣れたもんで。
荷物を背負っていてもうまくバランスをとって歩けるようになった。


姉｢A、そんなに早く歩いたら転んじゃうよ｣

｢大丈夫。あとなんだっけ？薬もらって終わり？｣


そんなやり取りをしながら院内を歩いていると、目の前の部屋から出てきた車椅子の人影。
思わず二度見してしまった。


｢……あ！｣


私の声に反応したその人は、私に気づくと同じように目をまん丸くしてこちらを見た。


結弦｢A……｣



ゆづくんが出てきた部屋は、整形外科の診察室。
そっか。日本から戻ってきてたんだ。

診察室を出たゆづくんは、ゆっくりと車椅子を動かして私のほうに近づいてきた。


正面を向いて見えた、ゆづくんの足。
その右足首は、がっちりと固定されていた。

なんか、見てるだけで胸が苦しくなる。



結弦｢久しぶり。今日はリハビリ？｣

｢うん。……えっと、……ゆづくんは？リハビリ……はまだだよね｣

結弦｢まあ、ね。まだ安静中｣

｢そっか……｣


ほかにもいろいろ話したいことがあったはずなのに、言葉が出てこない。
なんか、気を使ってしまって何を喋ったらいいか分かんなくなってる。
二人の間に訪れた、しばしの沈黙。

その沈黙を破ったのはゆづくんのほうだった。


結弦｢昨日さ……｣

｢うん？｣

結弦｢電話したんだけど｣

｢え？｣

結弦｢まあ時間的に気づかないかなって思ったけど。折返しも無いからスルーされたのかなって｣

｢えー！ちょっと待って｣


ゆづくんにそう言われて、慌ててスマホを確認する。


｢わー……｣


確かにゆづくんから着信が残ってた。


｢ごめん。寝てて気づかなかった。折り返さなかったのはスルーじゃなくて寝坊です｣

結弦｢まじか(笑)寝坊とか珍しいじゃん｣

｢やっぱり自分のベッドのほうが快適に眠れるからね……｣

結弦｢分かるわ〜｣


あれ、さっきまでの緊張が嘘みたいに普通に話せてる。
緊張してたのは私だけだったのかな。

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