氷上で煌めく太陽１８

８８１話 ページ49

どうしようかなって思ったけど、少しだけでいいから声が聞きたくて結弦に電話を掛けた。

電話に出た結弦の声は、いつもの優しくて明るい結弦だった。
それだけでなんかホッとする。

その反面、結弦なら受けとめてくれるって思ったから、我慢出来ずに今日のことで少し愚痴めいたことを言った。


結弦はきっと分かってる。
頑張れとか頑張ったなんて言葉は、気休めにもならない。大丈夫なんて軽々しく言えないって。

だから言葉を選んでる。
僅かな静寂が、それを物語ってる。

重苦しい空気にはしたくなくて、ごめんね？とできるだけ明るく言った。

思っていた通り、結弦はいいよ、って言ってくれた。
どこまで優しいんだよ、もう。


結弦《ねえA。足……なんともない？》


コンビネーションジャンプのあとから気になって、という結弦。
やっぱよく見てるなあ。


｢足はね、捻挫しちゃった｣

結弦《え！大丈夫じゃないじゃん》

｢うーん……そうなんだけど、トレーナーさんがフリーに出られるように最善を尽くすから、って。明日の朝の様子でどうするか決めるみたい｣

結弦《そっかぁ。やっと出られた四大陸だもんな。フリーも出たいよな》

｢当たり前じゃん。世界選手権だって、その後の国別だって出たいよ｣

結弦《あ、国別。そっか。国別もA出たこと無いもんね》


そうなのだ。
四大陸は念願かなって出場は果たした(まだショートだけだけど)。
２年に一度開催される国別対抗は、前回大会は肩のリハビリ中で出場は叶わなかったし。


｢足は腫れてるけどそんな酷くないし。大人しく過ごして、少しでもいい状態にもっていきたい｣

結弦《フリーまで中一日あるしね。明日、いい判断ができるといいね》

｢うん。結弦は明日のショート頑張って。私、会場で見れるかわかんないけど｣

結弦《いいって。無理すんな。足痛めてんのに無理して来られても嬉しくない》

｢それはそうだけど……今のちょっとグサッときた｣

結弦《だって、ここで無茶して、この先一緒に試合に出られないとか俺やだもん》

｢……｣


やだもん、って！
いま絶対、電話の向こうで口尖らせてるでしょ！
くっそ……急に可愛い羽生結弦ぶっ込んでこないでよ……


結弦《ねえA聞いてる？》

｢聞いてます聞いてます。わかりました！明日は部屋で大人しく観てます｣

結弦《それはそれで寂しいけど》


どっちなのよ……。
こうやって振り回されながら、しばらくくだらない話をしておやすみをした。

作者より。【続編追記】→←８８０話【結弦side】

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す