879話 ページ47
ブライアン「A。今日は今できる最善の処置をして明日の朝の様子で判断しよう」
「……」
優しい声色でそう話すブライアンに、私は無言で小さく頷いた。
意地でなんとかなるほど世の中甘くはなくて。
コンビネーションで転倒したあと、違和感を抱えたまま演技を続けた結果。
フリップジャンプも転倒して、ステップではレベルが2に。
最後のスピンはレベルが3になってしまった。
得点は62.88で6位。
情けないし足は痛いしで、すごく泣きたい気分。
アイシングされていた足は、トレーナーさんの手によって固定用のテーピングが巻かれているところ。
その様子をぼーっと見ていると、トレーナーさんがテーピングを巻きながら話しかけてきた。
トレーナー「やっと出場できた大会だからね。明日も出られるように僕も最善を尽くすから。だから元気だしてね」
「……私、元気なかったですか?」
トレーナー「そりゃあもう!明らかに落ち込んでるって顔に書いてある」
「そこまで?そんなつもり無いんだけどな」
トレーナー「気を強く持つのも大事だけど、時と場合によっちゃ思いっきり気持ちを吐き出してもいいんだよ?我慢し過ぎは精神衛生上も良くないからね」
「我慢かあ……」
トレーナー「ただでさえ加賀美さんは我慢して隠そうとする、って。羽生くんが言ってたし」
「え、彼そんなこと言ってたんですか」
もう……余計なこと言わなくていいのに。
トレーナー「今『余計なこと言って』って思ったでしょ?」
「……エスパーですか(笑)」
トレーナー「選手のメンタルを考慮するのもトレーナーの仕事にとって大事だからね」
「もう……敵わないなあ〜」
結弦にも。トレーナーさんにも。
こんなに私のことを考えてくれてる人達がいるって思ったら、今まで張り詰めていた糸が切れたかのように涙が溢れてきた。
トレーナー「そうそう。思いっきり泣いちゃいなよ。今ここには僕と加賀美さんしかいないから」
「うっ……うぅ〜……。悔しい……!もっとできるはずなのにっ……」
泣きじゃくる私の話を、トレーナーさんはうん、うん、とただひたすら聞いてくれた。
何かアドバイスをするわけでもなく、そうだね、辛かったねと同調してくれるだけで心が軽くなる。
「明日のフリー、出たい」
トレーナー「出来るだけ万全な状態に近づけられるように、僕も最善をつくすよ」
一緒に乗り越えよう。
その言葉とともに私とトレーナーさんの拳がコツン、と合わさった。
762人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
優里奈(プロフ) - アベルさん» 今後のことは色々考えているみたいですね(^^)どんなことをやってくれるのか楽しみです!まだ少し気持ちの整理がつかないけど、ここの更新も、相変わらずゆっくりだと思いますが少しづつ続けていきますね(^_^) (2022年7月20日 6時) (レス) id: 59b863f10c (このIDを非表示/違反報告)
アベル(プロフ) - ゆづくんらしい会見でしたね。もう競技をしてる姿が見れないってなると寂しさが込み上げてきますが今後の活動をうっすら聞いて今は期待と楽しみに満ちています。どうか連載続けてください。私は待ってます (2022年7月19日 22時) (レス) @page17 id: e570546693 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:優里奈 | 作成日時:2022年7月6日 21時