847話 ページ14
結弦からのLINEでリラックスできたと思ったのに、6分間練習の時に会場の圧というか雰囲気に呑まれかけた。
ジャンプが決まらなくて焦る。
その様子をブライアンが察したのか、バックヤードに戻ると肩をぽんぽんと優しく叩かれる。
ブライアン「今のAはリンクみたいにガチガチだね」
「ジャンプが……」
ブライアン「何も不安がることはない。僕達はAの味方だよ」
そうだろう?とそばにいたトレーシーに問いかけるブライアン。
トレーシーは、「当然よ。私はAのお母さんですもの」と柔らかな笑顔で答えてくれた。
「ありがとう。ブライアン、トレーシー」
なんてことない会話だけど、二人のおかげで肩の力が抜けた気がする。
二人が居てくれてよかった。
‥
『29番。加賀美Aさん』
名前がコールされ、氷を軽く蹴ってリンク中央に向かって行く。
明らかに空気が今までと違うのが、ひしひしと伝わってくる。
「負けない」
スタートポジションに立って小さく呟いて、ハッと息を吐く。
ポーズを取ると、音楽が流れる。
周りの雑音は気にしない。
今はただ、自分の演技に集中するんだ。
最高の、ファントムを。
演技冒頭のトリプルアクセル。
体力がある前半に組み込んだこのジャンプは、ジャンプの前後の振りをより難度の高いものにして、その完成度で勝負する。
お手本はもちろん、昔から変わらず結弦の3Aだ。
落ち着いて入れば絶対降りれる、そう言ってくれた結弦の言葉を信じてアクセルジャンプを跳んだ。
「っ、」
ちょっと詰まり気味の着氷になったけど、大きな乱れは無く降りることができた。
その後も順調にスピン、ステップとこなして、後半のコンビネーションもクリーンに着氷。
残すは、さっきの練習でコケたフリップ。
苦手意識は無いけれど、直前の仕上がりがいまいちだっただけに緊張感が増す。
焦らず、丁寧に……
いつもブライアンから言われることを頭の中で反芻して、最後のフリップジャンプに入る。
よっしゃ!
練習での不調が嘘のように完璧に決まった!
最後のレイバックスピンのあとのフィニッシュも、音にピタッとハマって気持ちよく演技を終えた。
相変わらず観客の反応は薄いけど、それでも満足の出来る演技が出来てホッとしてる。
リンクサイドに戻ると、ブライアンも嬉しそうに拍手で迎えてくれた。
その笑顔にホッとして、少し泣きそうになってしまう。
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優里奈(プロフ) - アベルさん» 今後のことは色々考えているみたいですね(^^)どんなことをやってくれるのか楽しみです!まだ少し気持ちの整理がつかないけど、ここの更新も、相変わらずゆっくりだと思いますが少しづつ続けていきますね(^_^) (2022年7月20日 6時) (レス) id: 59b863f10c (このIDを非表示/違反報告)
アベル(プロフ) - ゆづくんらしい会見でしたね。もう競技をしてる姿が見れないってなると寂しさが込み上げてきますが今後の活動をうっすら聞いて今は期待と楽しみに満ちています。どうか連載続けてください。私は待ってます (2022年7月19日 22時) (レス) @page17 id: e570546693 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:優里奈 | 作成日時:2022年7月6日 21時