氷上で煌めく太陽１１

４９３話【結弦side】 ページ2

去年はよくやっていた、試合前のおまじない。

今シーズンが本格的に始まって２ヶ月くらい経ったけど、そういやまだやったことなかったなって思った。

まあ、俺が怪我したりしてゆっくり会えなかったってのもあるけど。


お願いしまーす、とベッドに座ると、Aちゃんがぺち、と両手で俺の頬に触れた。

じんわりとAちゃんの熱が伝わってきて、それだけで心がポカポカしてくる。


コツン、とおでこを合わせると、｢あのさ、｣といつもと違う言葉が聞こえてきた。


｢あのさ……世間では連覇連覇って言われてるけど、私、ぶっちゃけそんなのどうでもいいんだ。連覇したくて優勝目指してるんじゃないの｣

結弦｢Aちゃん……？｣


いつもと違う声のトーンに、どうしたのかと声をかける。

するとAちゃんはそっと俺から離れて、真っ直ぐな視線を俺に向ける。


｢私、ゆづくんと一緒に優勝したい。同じ色のメダルを獲って、一緒に表彰台の一番高いところにあがりたい｣

結弦｢Aちゃん……｣

｢中国杯のとき、エキシビションにもバンケットにもゆづくんがいなくて、なんか寂しいなって思って。なんていうか……私がスケートをしてる時、いつも近くにゆづくんがいたから、だから……あの、えーっと……だからね、……あーもう！なんて言ったらいいんだろ……｣


なんか、いつもと違って落ち着きのないAちゃんにびっくりしたけど、それ以上に一生懸命話そうとしてくれてる姿が可愛くて、自然と顔が綻ぶ。


結弦｢Aちゃん｣

｢なに……てか、なんで笑ってるの？｣

結弦｢えへへ。Aちゃんが可愛くて、つい｣

｢私、真面目に話してんのに……｣

結弦｢分かってる。……ねえ、Aちゃん｣

｢なあに？｣


立ったままのAちゃんを見上げながら、ギュッと彼女の手を握る。
Aちゃんは一瞬身構えたけど、俺は構わずに言葉を続けた。


結弦｢試合前に不謹慎かもしれないけどさ、｣

｢？｣

結弦｢好きだよ。Aちゃんのことが大好き｣


その瞬間、Aちゃんが息を呑んだのが分かった。
だけど目はそらさないでじっと俺の言葉を聞いてくれてる。


結弦｢スケートが大事なのは変わらないけど、それと同じくらいAちゃんのことが大好き｣

｢ゆづくん……｣

結弦｢俺の勘違いじゃなかったらさ、Aちゃんも俺と同じ気持ちだと思うんだけど｣


ソチでの告白から10ヶ月。
あの時とは違う空気が俺らにはあると思うんだ。


｢私は……｣

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