39話【結弦side】 ページ41
「羽生選手」なんて、試合とかインタビューの時だけでじゅうぶん。
ずっとスケート選手でいるなんて、息が詰まっちゃう。
だからせめて、今この場にいる俺は「羽生結弦」っていうただの17歳の男子高校生でいたい。
目の前にいる、俺より3つ下の女の子。
俺からのお願いに、困惑して難しい顔をしている。
「ゆ……」
結弦「ゆ……?」
「……あー、もう!考えるのめんどくさくなってきた!ゆづくん、でいいですか!宇野君もそう呼んでるし!」
若干ヤケになってそう言ってきた加賀美さんの顔は、気のせいかちょっと赤くなってる。
ていうか、めんどくさくなってきたって(笑)
結弦「仕方ないなあー。それで許そう!」
「ていうか、はにゅ……ゆづくんだって!」
結弦「え?俺?」
「私のこと、加賀美さんって呼んでるじゃないですか。私に名前で呼ばせるなら、ゆづくんだって同じにしてくだいさいよ。じゃないと平等じゃないです!」
加賀美さんが途中まで名字で呼びかけたのがちょっと可愛くて笑いそうになったけど、確かに加賀美さんの言い分も納得。
結弦「いいよ。よろしくね、Aちゃん」
「……」
結弦「あれ?どうかした?」
「なんの迷いもなく呼べちゃうあたりが……慣れてます?」
結弦「何に?」
「女の人の相手」
何を言い出すの、この子は。
真剣な顔で、俺が女の人の扱いに慣れてるようなこと言ってくるし(笑)
さっきまで難しい顔したり「平等じゃない!」と怒ってみたり、かと思えば真顔でそんなことを言ってくる。
ほんと、コロコロと表情が変わって面白いな(笑)
結弦「失礼だなー(笑)俺、そんなに軽い男に見える?」
「モテてはいそうかなって」
結弦「残念ながらモテませーん。それにAちゃんが思ってるほど俺、軽くないからね」
「それは失礼しました」
結弦「俺は一途ですから。たぶん」
「たぶん?」
結弦「ずっとスケートばっかりしてきたから、スケートには一途だけど。それ以外はどうかなー?わかんないや」
「……あはっ!スケートに一途……っ!確かにそうかもしれないですねっ」
俺なにか変なこと言ったかな?
Aちゃんは「涙出るー」なんて言ってクスクスと笑ってる。
「それだったら、私だって同じです。ずっとスケートばっかりやってきたから。スケートには一途です」
Aちゃんは普段はキリっとした印象なのに、笑うとちょっと眉が下がって幼く見える。
そんな彼女に、不覚にもドキッとした。
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作者名:優里奈 | 作成日時:2021年4月13日 22時