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その布の少し下で、拍手をしている。どうやら音の正体はこれだったらしい。しかしその手は手首からパッチワークのようにツギハギで色ががらりと変わっており、人間のものと同じ見てくれをしている。しかしその色は一切の血が通っていないかのように真っ青で、なんなら少し緑がかって、カラカラに乾ききっていて、爪も二、三枚剥がれている。
極めつけに手のひらは外を向いていた。手の甲を打ち付けている、いわゆる裏拍手だ。
背筋にゾッと冷や汗が浮かんで、すぐに目を逸らす。ぺち、ぺち、ぺち。すぐ横を通り過ぎて行く間、はくはくと浅い呼吸をして時間が過ぎることをただ神に祈っていた。
ずるり、ずるりと自分の背丈よりもずっと大きいそれが隣に来た時にAちゃんは小さく会釈をしていて、それがまた無性に怖かった。
拍手の音が聴こえなくなった頃、後頭部にかけられた力が緩んで「もういいよ」とAちゃんが言った。彼女の声に酷く安心して、恐る恐る顔を上げる。もう、周囲には何もいなかった。
「見たでしょ」
「……あ、あれ、なに」
「あーあ、だから言ったのに」
「だって、おかしいってあんなの」
「あはは。ああなりたくないでしょ？ 人の話は聞いておくべきだよ、好奇心に負けるとホラー映画の主人公になっちゃう」
「ホラー映画、みたことない」
「人の忠告をまともに聞けないどうしようもない自己中のＫＹが、ひたすら酷い目に遭って最後には死んで原因は何も解決しないまま終わるのがセオリー」
「ひっ」
「酷い目に遭いたくなかったら公序良俗にはできる限り反さない方がいいし、人の話は聞いておいた方がいいよ。これは人生のアドバイス」
はぃ、と辛うじてした返事は弱々しくて、いっそ笑えた。
相変わらず蝉の声は耳を劈くけど、その声の主の正体がまた、……想像しているそれとは違った時、正常な思考を保てる自信が無かったので、ボクはそれ以上考えるのをやめた。
「怖い？ 手でも繋ぐ？」
「いや、いま、汗かいてるし」
「別にいいよ。まふまふくんが気にしなければだけど」
「じゃ、じゃあ……」
差し出された手をそっと握る。外気温はおそらく体温にも近いだろうというのに、とても冷たかった。アイスを食べたからだろうか。あと、白くて柔らかくて細い。さっきまでとはまた別の理由で急に心臓が早鐘を打ち始めて、この脈拍が彼女にばれませんようにと願う他なかった。
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作者名：こより | 作成日時：2023年3月1日 21時
