ことばよりも【短編集】 (ページ3)

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「……ボクがしたくてしてることだから、きみがなにか悩むことなんてないんだよ。たまたま隣の席に座ったくらいの気軽さでいい。大事なのはきみがもう、寂しさから自棄になってしまわないことだから」

「なんで、そこまで」

「きみだって、大事なボクの生徒だから」

　全人類に同じことを囁いてみせるんじゃないだろうか、と思わされるほど、彼は公平に不平等だった。誰にもできるように見えて、その実簡単なことではない。肉親以外に労力を割くことは、基本的に相当の理由が必要だからだ。彼は救いの手を、教室の隅でじっと話を聞いているだけの私にまで向けてしまう。誰にでも優しくできてしまうのは、誰にも興味が無いからかもしれない。けれどそのまやかしの愛情で、心に空いていた穴がばかみたいに満ち足りてしまうのが、愚かしくも私という人間なのだった。

　明日になれば彼は全部忘れてしまって、私だけが期待を裏切られてしまうんじゃないかという疑念もあって、それならばいっそこの時間が終わらなければいいのにと思った。先生はもう湯気の立っていないコーヒーを啜って、「ゆっくり食べていいよ」といつまでもそんな私を待ってくれていた。

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